木村:挑戦は続けますしね。インタビューでも、「今が一番忙しい」とおっしゃっていました。少しはゆっくりできているのかなと思ったら、そうじゃなかった。「追求していることは今が一番多い」と。
後藤:そうなんですよね。質問した僕も、「そうでした、すみませんでした」と。
木村:「いま話を聞いている相手は羽生結弦だった」と記事でも書いていましたね。
後藤:そんなリラックスしたり、心を休めたりしない人ですよね。
木村:「自分はマグロですから」と笑いながらおっしゃった。「止まると死んじゃうんですよ」みたいな。
後藤:そうでした。
木村:「羽生さんと取材のときに雑談はするのでしょうか?」という質問もあります。
後藤:インタビューはほぼほぼ全部、『飛躍の原動力』に載せていますが、雰囲気を伝えるとすると……。たとえば、「久しぶりです」という感じで対面しましたが、着替えてヘアセットしている合間に、「後藤さんに見られていると、試合前のような感じで緊張してきますね」とか羽生さんがおっしゃって。「そういう付き合いでしたね」「でも、そんな緊張とかしないでしょう」といった会話はしました。
あと、何かあったかな。そうそう、話しながら整理するというところで。(自分の言葉を)よく喋るようになったことについて、羽生さんは「ソチの後」だと言うんですけど、もっと前からなんですよ。2013年のスケートカナダなんですけど、パトリック・チャン選手が優勝して、羽生選手は2位だったんです。そのときに、この選手すごいと思ったんですよね。
木村:どんなところを?
後藤:当日か翌日のいわゆる「一夜明けインタビュー」の囲み取材ですが、そのときの演技がちょっと崩れてしまったんですね。(それを振り返って)自分が何でこういう精神状態になって、何でジャンプが整わなかったのかということが、整理できているんです。それをちゃんと説明して話してくれたんですが、当時18歳とかですよね。18歳でこんなことを喋れる選手はいなかったよな、と思いました。
なので、「そのときから自分の言葉でよく喋っていましたよ」と伝えたら、「あ、そうなんですね」と笑っていました。
木村:ご本人はソチの後だと思っていたけれど、ということですよね。10代でそれを言えるというのは、やっぱりなかなか。負けたときこそなかなか言えないというか、閉ざしちゃうというのはありますよね。負けて悔しいんだから触れられたくない、とか。そこを自分で整理して、次につなげるというのは本当にすごいです。