後藤:どんなインタビューでも、世の中の人が知りたいことを本当に聞けているのかという怖さはあります。特に羽生さんの場合は、一つ質問すると独自の考え方をした長い回答が返ってくるので、それを聞きながら、「ここをもっと聞けばすごい深いところまで聞けるんじゃないか」という部分を聞き逃さないようにしないといけない。羽生さんは言葉が豊富なので、自分が質問をしたいことばかりぶつけるのではなく、言ったことを聞き逃さずもっと聞きたいところをどんどん拾っていくという意味では、羽生さんの場合は特に緊張します。あと、ペンが追いつかない(笑)
木村:言葉が多すぎて書ききれない、と。
後藤:メモがね、取れないです。だから、キーワードだけ聞き逃さないようにバーっと書いて。僕のやり方としては、赤ペンを使ったりしながら、「もう一回後で聞こう」「この言葉の意味を掘り下げよう」とかやっていくんですけど、それでも追いつかない。
木村:言葉が豊富ですもんね。先週、本誌(AERA2022年10月10-17日合併号)が発売されたときのライブ配信でも伝えましたが、取材がとても貴重だから、「これを伝えなければ」という使命感に追われて編集をしていました。後藤さんは10年取材しているとのことですが、この現場を見たからには伝えなければ、という思いは強いですか?
後藤:そうですね。でも、羽生さんの演技を生で見て、羽生さんの言葉を生で聞けて、それを媒体を通して伝えたときに、果たして自分がこのすごさや面白さを本当に伝えられているのかというのは、たぶんできていないというか。常に「あれが足りなかったんじゃないか」「もっと聞けばよかったんじゃないか」「こういう表現をすればよかったんじゃないか」という反省の日々です。
――「インタビューも戦いですね」というコメントが届いています。
後藤:まさに、羽生さんの場合は言葉が多いので、限られた時間でどこを届けるのかというのは……。疲れました(笑)
木村:疲れますよね(笑)。今回、プロに転向されてステージがまた変わりましたが、それによって後藤さん自身がフォーカスする部分は変わりましたか? 「プロになってどんな可能性があるのか」という質問が届いています。
後藤:単純に言うと、他の選手と競い合う形ではなく、色んな方と共演するような感じになりますよね。でも、羽生さんだったら、それでも4Aに挑戦したりだとか。一方で、競技会を目指す選手たちがやっているように、羽生さんも技を進化させたり、スピンをより良いものにしていったりとか、たぶんそういう選手になるんじゃないでしょうか。きれいに見せるために技のレベルを少し下げることはしないんじゃないか、とか思っちゃいますね。(プロになってからも)史上初を成功させるなんてことが、ありえるんじゃないかと思っているんですけど。