アルツハイマー病の治療・研究にとっての「運命の日」が迫っている。
日本の製薬会社エーザイは、今週中に、アルツハイマー病の新薬「レカネマブ」の治験第三相(フェーズ3)の結果を発表する。
なぜ、「運命の日」なのかと言うと、90年代後半から、積み上げてきたアミロイドβを標的とした創薬の方法が、正しいのか否かの決着がこの日つくからだ。
アルツハイマー病の新薬というと、アメリカの製薬会社バイオジェンが開発していた「アデュカヌマブ」の昨年の騒動があるために、まずは眉に唾をつける人が多い。
「レカネマブ」は、「アデュカヌマブ」と同じアミロイドβを標的にした抗体薬だ。そのことから、今度も駄目だろう、と考える人は多いし、メディアの多くはそうだ。
私は2002年から足かけ20年にわたって、アルツハイマー病の治療法の解明について取材をして昨年『アルツハイマー征服』という本も書いている。なので、違う考え方をしている。
たとえば、昨年6月FDA(米食品医薬品局)がアデュカヌマブを条件付ながら承認した時、言われた批判のひとつに、「これまでアミロイドβ抗体薬の治験はすべて失敗に終わってきた」というのがあった。
たしかに最初の抗体薬である「バピネツマブ」は、被験者数を2452人にまで増やした治験第三相でも臨床効果は、認知機能の面でも、身体的な面でもまったくなかった。
新聞社やテレビ局の科学部の記者は、2、3年で持ち場がかわっていくので、ずっとこの問題を見続けている人はいない。だから、そうした批判が特に医者から起こると、報道のなかでその話を必ずいれるようになる。
しかし、この批判は、実はひとつひとつの治験の中身を見ていない。
「バピネツマブ」の治験で効果が出なかったのは、最高投与量が、体重1キロあたり1ミリグラムというごく少ない容量だったためと、アルツハイマー病ではない認知症の患者が、3割近く紛れ込んでいた可能性があったためだろう。