そこを標的にすることは、理にかなっている。

 LecanemabのLはこの抗体を開発したスウェーデンウプサラ大学の研究者ランフェルト(Lannfelt)のLからとっている。ランフェルトは、北極圏にあるオーロラの街ウメオに住む遺伝性アルツハイマー病の一族の遺伝子の中の突然変異Arctic mutationを2001年に特定した。そしてその独特の病態にヒントをえて、レカネマブを開発した(エーザイは、権利を買い取り、治験を担当)。

 レカネマブの治験の設計の妙は、どちらに転んでも言い訳のできないシンプルさにある。

 かりに主要評価項目を達成しなかったとすると、アミロイドβを標的とする創薬、そしてこの20年主流であり続けたアミロイドカスケード仮説を根本から考え直さなければならない、ことになる。

 そしてかりに、主要評価項目を達成すれば、病気の進行に直接働きかける薬の誕生ということになり、アルツハイマー病の治療は、大きく変わることになる。

下山 進(しもやま・すすむ)/ ノンフィクション作家・上智大学新聞学科非常勤講師。メディア業界の構造変化や興廃を、綿密な取材をもとに鮮やかに描き、メディアのあるべき姿について発信してきた。主な著書に『2050年のメディア』(文藝春秋)など。

週刊朝日  2022年10月7日号

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