伯父によると、母親は奈良へ引っ越した後も月1回は、大阪府内の義実家に子どもを連れて遊びに来ていたという。
「もともと見合い話を持ちかけたのは、うちの母。ずっと『申し訳ない、申し訳ない』と気にかけていた。徹也ら3人の孫のこともとてもかわいがっていました」
■入信直後から高額献金
91年、山上容疑者の母親は統一教会に入信する。直後から高額な献金を始め、まず2千万円、すぐ後に3千万円、さらに1千万円……。原資は夫の生命保険だった。伯父は、入信したことを3年ほどたってから知った。
「僕はとても仕事が忙しい時期で、母から聞いた妻に教えられた。精神的に本当にしんどかったのだと思います。いくつもの心労が重なり、そこを教団につけこまれてしまったんでしょう」
かつて勧誘活動をしていた元信者の60代女性は当時の母親について、教団に狙われる条件がそろいすぎていたとして、こう話す。
「なぜ自分だけこんな目に遭うのかと悩んでいたことでしょう。おそらく学生時代に学んだことも生かせず、自己実現もできていなかった。『男が立たない家系で、すべては悪霊のしわざ』という教団の『因縁トーク』がもろに入っていったと思います。『じゃあ私はどうすればいいんでしょうか?』と言わせやすく、高額な多宝塔や壺(つぼ)も売りつけやすかったでしょう」
この元信者の女性は84年に入信し、約3年後に脱会しているが、ちょうど在籍時に、教団の久保木修己・初代会長が新年の挨拶(あいさつ)で「これからは『壮婦』の時代だ」と発言したことをよく覚えているという。「壮婦」とは結婚している女性。当時の教団が傾倒していた霊感商法の対象として、そして新たな信徒として明確に掲げられたのだ。
その発言を受け、それまで教団の「青年信者」の礼拝は日曜日だったが、壮婦のみ月曜日に変更されたという。「夫や子どもの目を気にすることなく参加できるように」するためだ。山上容疑者の母親が入信したのは、その流れが全国的に定着した、まさにその時だった。