まず強風に強いカセットコンロが2台。そして業務用のトマト缶(2キロ入り)も常備している。それにしても、なぜトマト?
「避難生活が長くなるにしたがって、温かい食事、とくに汁物を食べたいという思いが強くなるんです。災害が起きると、被災者がスーパーやコンビニに殺到し、おにぎりやパンなどがあっという間になくなります。でも、野菜は売れ残るんです。自宅で料理ができないから。そこで私たちは現地で野菜を買って、トマトと一緒に煮込んでお出しするつもりです」
もちろん主食も欠かせないので、水を注ぐだけで食べられるアルファ米が入った段ボールを4箱積んでいる。おにぎりが520個作れるという。
「飽きずに食べていただけるように、わかめごはんや五目ごはんなど何種類かのアルファ米を用意しています」
避難生活では子どもたちのケアも大切だ。「不安で食が細くなり、何も食べられなくなる子がいます。そういう子には、まずお菓子を食べてもらい、そのうえで少しずつご飯も食べられるようになってもらえれば」
レスキューキッチンカーが搭載しているのは、食料だけではない。トイレットペーパーや生理用品はもちろん、簡易便器と簡易テントもある。この二つを組み合わせれば個室のトイレになる。
ボディーの一部はホワイトボードになっていて、被災者が伝言板として使うことができる。さらに注目すべきなのが看板だ。ごく普通の△型の立て看板だが、解体して組み替えると、車いすに早変わりするのだ。
レスキューキッチンカーは、普段は東京・品川にある本照寺の境内に置かれている。住職の塚田團樹さんが語る。
「中村さんの活動を拝察していると、食育と防災という日常生活において疎かになりがちな意識を、もう一度見直す機会を与えて下さっていると感じます。お参りにいらした方が、『この車は何?』と関心を持ってくれることも多々あります」
中村さんはこの車両を、日頃は普通のキッチンカーとして使っている。売り物にならずに廃棄処分される食材を利用して料理を出している。また、全国各地の防災イベントに参加して、デモンストレーションを行っている。
「フルカスタムのレスキューキッチンカーがたくさんできて運用されればいいのですが、それはまだ先のことでしょう。そこで普段キッチンカーを運用している方々が、いざというときは被災地に行くという気持ちで、少しでも非常食などを常備してくれればと願っています。現在、東京だけでもキッチンカーは4800台もあるのですから」
その第一歩として、「この車は何?」と興味を持つ人がいればうれしいと語る。
(本誌・菊地武顕)
※週刊朝日オリジナル記事