それはさておき、學さんの現在の症状である。MRIや血流検査など精密検査の結果、脳の萎縮は年相応だが、脳の側頭葉の血流が悪いことがわかっている。朝田医師は言う。

「認知力検査では85歳にしてはしっかりしているし点数も良い。ただ、精密検査で血流が悪いところがあってMCIと診断しました。本人はレビー小体型と思われていましたが、むしろアルツハイマー型認知症の初期で進行する可能性があります。一人暮らしで人との接触も少ないので心配もあります」

 認知症はその50%以上がアルツハイマー型認知症、20%がレビー小体型認知症、残りが血管性認知症や前頭側頭型認知症などと言われる。レビー小体型認知症の初期と診断された筆者は認知症早期治療に励んでいることを本誌で連載し、『ボケてたまるか!』など2冊にまとめた。今回は『學さんのボケてたまるか!』にアドバイス役として伴走できたらうれしい限りだ。

 學さんは4年前に数カ月、筑波大学附属病院の認知力アップデイケアに参加している(筆者も最初に半年通った)。この時は治療を意識して、というよりは認知症早期治療への興味が動機だったという。筋トレの本山輝幸さんも当時のことをよく覚えていた。

「とても熱心に通われていました。しかし、仕事が忙しくなったのか数カ月で見えなくなった」

 ちょうどその時、學さんは別の病魔に襲われていたのだ。

「胃の内視鏡検査で悪性腫瘍(しゅよう)が見つかったのです。最初は胃壁を削り取る手術をしました。結局は胃の3分の2を摘出しました。80歳を過ぎてからの2度の大手術はこたえました。62キロあった体重は10キロ以上減少し、体力も落ちた」

■舞台稽古で使う洒落た室内履き

 体力には自信があった學さんである。若いころは山にこもって体を鍛え、400メートルトラック3周を軽く走った。高齢になってからも毎日8千歩歩くことを日課にしていた。その体力がなくなったという。學さんにとってショックだった。手術後はコロナ感染拡大による緊急事態宣言などと重なったこともあり、デイケアにはそのまま行かなくなってしまった。それが今年になって幻視である。

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