ナンシー・ペロシ米下院議長の訪台を受け、8月4日、中国軍が軍事演習で発射した弾道ミサイル5発が、日本の排他的経済水域に落下した。もし台湾有事になったら、日本はどのような準備を迫られるのか。AERA 2022年9月5日号の記事から。

【写真】台湾から約110キロの距離にある与那国島の陸上自衛隊駐屯地

ペロシ氏の訪台を受け、中国軍は台湾付近で大規模な軍事演習を行った。8月4日、5発の弾道ミサイルが日本の排他的経済水域内に着弾した(写真:aflo)
ペロシ氏の訪台を受け、中国軍は台湾付近で大規模な軍事演習を行った。8月4日、5発の弾道ミサイルが日本の排他的経済水域内に着弾した(写真:aflo)

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 米海兵隊トップのバーガー総司令官は昨年4月、「遠征前進基地作戦(EABO)」を含む新しい作戦構想を発表した。元陸上自衛隊幹部は「イラクやアフガニスタンでの戦闘が終わり、米海兵隊は新しい戦略環境に対応できる能力を求められている」と語る。急いでいるのは現在保有していない地対艦ミサイルの開発だ。台湾有事の際、中国軍艦艇の展開を封じ込める狙いがある。

 自衛隊関係者によれば、在沖縄海兵隊は昨年後半から、沖縄本島周辺での航空機やヘリによる降下訓練、輸送機の着陸訓練などを増やしている。米海兵隊は自衛隊に対し、宮古島や石垣島などでも共同訓練や防災・住民保護での協力をしたい考えを非公式に伝えているという。別の元陸自幹部は「米軍は自衛隊が駐屯している場所に展開したい。言葉の問題を解決できるし、現地住民との衝突を避け、米軍の責任も緩和できる」と話す。

 陸上自衛隊は15年ほど前、「南西の壁」と名づけた構想をまとめた。対馬から九州、沖縄本島などを経て日本最西端の与那国島までに対空・対艦ミサイルと地上部隊を組み合わせた部隊を配置して防衛ラインを作り上げる構想だった。

 陸自は現在、奄美大島と宮古島に12式地対艦誘導弾(12SSM)部隊を配備し、今年度末までに石垣島にも同部隊を配備する。台湾から約110キロしか離れていない与那国島には、沿岸監視部隊と電子戦部隊が配備されている。

 中国軍のミサイルは今回、与那国島から80キロの沖合に着弾した。中国軍が設定した訓練区域の一部は、与那国島をはさむように設定された。

 陸自中部方面総監などを務めた山下裕貴元陸将は「中国軍が台湾東部に上陸するためには、台湾と与那国島の間を通る可能性が高い。地対艦ミサイルの射程などを考えれば、中国は石垣島より西側の島々から妨害行動を受けることを想定し、戦域として考えているだろう」と語る。同時に「中国の立場では、日本が尖閣諸島を不法占拠していることになる。当然、尖閣も戦域に含まれる」と語る。

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