林:はい、これからもできる限り頭は使うことにします。
和田:認知症そのものは、軽いうちだったら何でもできるんです。認知症の人にとって大事なのは、新しいことを覚えるのは無理なんだけど、いまできていることを減らさないことです。5年前10年前にしゃべったことは覚えてたりするので、たとえばもの忘れが激しい高齢の学者でも、講演はできるんですよ。講演をすることが認知症の進行を遅らせると思うんです。それから、いま料理ができるんだったら料理を続けさせる。アルツハイマーの変化がある以上、なるべく続けさせる。
林:はい。
和田:たとえば、レーガンとサッチャーは、大統領や首相をやめてから5年くらいして、「自分はアルツハイマーだ」と国民の前で告白しましたけど、その記者会見を見ると、完全に話が通じなくなってるんですよ。僕の実感としては、おそらく在任中だった5年前にももの忘れが始まってたはずなんです。
林:軽い認知症でも大統領や首相を務めることができるんですね。一方で、このあいだ96歳のエリザベス女王の映像が流れましたけど、ユーモアもあってすごくお元気そうでした。
和田:エリザベス女王も、もの忘れはたぶんあると思います。ただ、認知症の場合、もの忘れがあっても話は通じます。ユーモアが保たれてるということは、前頭葉機能が比較的保たれてるからで、意欲もあって、認知症が進みにくいタイプだと思います。当たり前ですけど、認知症という病気は誰でもなるんで、平等な病気なんですよ。ただ、同じぐらいの認知症でも、現役で仕事をしている人と、ふだん家に閉じこもってる人とでは、前者のほうが明らかに軽く見えるはずです。
(構成/本誌・唐澤俊介 編集協力/一木俊雄)
※週刊朝日 2022年8月19・26日合併号より抜粋