西武ライオンズの元エースで監督経験もある東尾修氏は、5打席連続本塁打の偉業を成し遂げたヤクルトの村上宗隆について語る。
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ヤクルトの村上宗隆がプロ野球新記録となる5打席連続本塁打を達成した。点差の離れた場面で気軽に勝負してくれる状況でもなかった。まだ22歳。この選手の成長曲線はまだ上向いているようにみえる。
偉業のスタートとなった7月31日の阪神戦では、1本目は0-2の七回に、左横手投げの渡辺の外角スライダーを、左翼席中段へ運んだ。2本目は1-2の九回1死。守護神の左腕・岩崎の初球、内角高め141キロ直球を右翼席へ同点ソロ。そして3本目は同点の延長十一回2死一塁。石井の浮いてきた116キロのカーブを逃さない決勝弾。阪神からすれば、特に十一回の場面は勝負を避けるべきだったとの意見もあるだろう。ただ、失投を逃さない、しかも打ち気にはやることなく、しっかりと変化球に体勢を崩されることなくとらえた村上をほめるしかない。
そして迎えた8月2日の中日戦。初回に柳のカーブを右翼席に運ぶと、三回には柳のチェンジアップに崩されながら左中間席へ。特に5打席連発となった一球は、柳の失投ではない。本人は「体勢を崩されたけれど、左手の感覚も右手のフォロースルーもよかった。もしかしたら入るんじゃないかと」と話したが、体の力がバットに伝わらないほど投手方向に体が出されたらノーチャンス。粘り腰というか、右手でボールを押し込むところまでパワーは残っていた一打だった。
王貞治さんや松井秀喜といった従来のホームランバッターは、どちらかというと「アウトサイドイン」(外から内)にバットを出す。松井はメジャーに行って少し変わったが、外角球なら巻き込むように打って、左打者ならライトスタンドに運ぶ打ち方だった。だが村上は違う。「インサイドアウト」でバットを出し、インパクトの瞬間に球にパワーを伝える。ボールの飛ぶ方向はどこだっていい。左翼方向でも右翼方向でも打球はスタンドに届く。その「強さ」とともに緩急にも崩れない「柔らかさ」もある。