「ADHDは注意欠如・多動症といい、発達障害の一種です。忘れ物やなくしものをしたり、集中力が続かなかったりする『不注意』が多く、衝動的な行動や落ち着きのなさが特徴です。発達障害は行動や認知の特性によって、ADHDのほか、コミュニケーションが苦手で特定のものごとに強いこだわりがある自閉スペクトラム症(ASD)、『読み』『書き』『計算』など特定の学習ができない学習障害(LD)の3つがあります。いずれも、知能や認知のデコボコが大きい状態です」
木下さんは動画で、「昔から物をよくなくし、なんでも忘れてしまう、スケジュール管理ができない」などと語っている。益田医師によると、実際に診察しない限りADHDかはわからないとしつつ、これらはADHDの典型的な症状だという。
一方、脳波をつかった診断に対してはこう首をひねる。
「発達障害の診断は『DSM-5』というアメリカ精神医学会の基準に当てはまるかどうかで判断します。ADHDの場合、不注意と多動性・衝動性それぞれに9つの症候が示され、そのどちらかで少なくとも6つ以上に当てはまらなければ診断できません。『12歳前までに症状がみられる』などの要件もある。だから本人への問診はもちろん、家族への聞き取りや通信簿など過去の記録を集めることになる。脳波の研究が進んでいるのは事実ですが、あくまで研究段階で、実際の現場で発達障害の診断に脳波検査を用いることはありません」
昭和大学客員教授なども兼務するハートクリニック横浜院院長の柏淳医師も、同様にこう断言する。
「木下さんが受けたとされるのはQEEG(定量的脳波検査)という、通常の脳波を図面上に落として色付けするもので、特別な検査ではありません。また、脳波検査で発達障害の診断ができるということは世界中どこの診断ガイドラインにも書いていません。例えば木下さんは動画で前頭葉の働きが弱いと言っていますが、前頭葉の機能が弱くなる原因はいくらでも考えられます」
ASDと合併する割合が高い、てんかんなどの疾患の有無を探るために脳波検査を用いることはあると言うが、発達障害そのものの診断や評価に脳波を使うことはないという。