北京五輪で金メダルに最も近いと言われているロシアのワリエワ(写真/gettyimages)
北京五輪で金メダルに最も近いと言われているロシアのワリエワ(写真/gettyimages)
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 ジュニア時代から北京五輪優勝候補と目されていたカミラ・ワリエワ(ロシア)は、15歳になりシニアデビューした今季、予想以上の強さを発揮している。

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 過去にもオリンピックシーズンにシニアに上がった10代の女子が躍進する例はあったが、ワリエワは勢いだけではなく、演技構成点でも得ている高い評価が妥当と思わせる質の高いスケーティングと表現力をも持ちあわせている。長い手足を活かして優雅に、時には力強く演技する身長160センチのワリエワは、体が軽い少女がとにかくジャンプを跳んで得点を稼ぐというイメージからは遠く離れたところにいると言っていい。

 ワリエワが師事するのは、フィギュアスケート女子シングルを牽引する名伯楽、エテリ・トゥトベリーゼコーチだ。トゥトベリーゼコーチは、ワリエワがまだ12歳のジュニアスケーターだった2018-19シーズン、一番気に入っているプログラムとして、パブロ・ピカソの名画『玉乗りの曲芸師』をイメージして振り付けられたショート『鏡の中の鏡』を演じるワリエワの写真を、ピカソの絵と並べてSNSにアップしている。当時から、トゥトベリーゼコーチはワリエワの中に並外れた才能を見出していたのだろう。

 ワリエワの凄さは、ショートでトリプルアクセル、フリーで3本の4回転とトリプルアクセルを入れる難度の高い構成を、完璧に滑り切るところにある。特にロシアでは女子も4回転を跳ぶことが普通になりつつあるが、やはりほとんどの場合4回転は“挑戦するジャンプ”になっているようにみえる。だがワリエワの4回転やトリプルアクセルには、頑張って跳んでいる感じがない。跳び上がってからフリーレッグを高く上げる着氷姿勢まで一貫して美しく、多くの加点を得られるジャンプなのだ。

 また、ワリエワにはロシアの伝統であるバレエの素養が感じられる。加えて、ショートでは夢を象徴する蝶を追う少女を演じて儚さを漂わせ、フリーでは名曲『ボレロ』を力強い滑りで表現、演技構成点でも満点の10点も出る高い評価を得ている。技術と芸術の両面において完成されたプログラムを求めるフィギュアスケートの理想を体現しているのが、ワリエワなのだ。

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ワリエワは“努力する天才”