■進むデジタル化 取り残される人
この図書館のホームページによると、シニアの記憶を鮮やかに呼び戻すため、地域の資料館や博物館の収蔵庫、家庭に眠る昔の生活道具などを使う。図書館の担当者は「移動図書館で高齢者施設を回り、古くて懐かしいものを持っていく。図書館にも昔の民具を展示し、回想法のような効果を期待している」と話す。
図書館で回想法を最初に取り入れたのは、呑海さんによると、島根県の出雲市立ひかわ図書館という。
シニアにも優しい取り組みを進める図書館が出てきている一方で、課題もある。前出の内野さんは「紙で読みたいシニアの要望になかなか応えられていないのでは」とみている。デジタル化が進み、画面で検索し、閲覧できる便利な時代になったが、取り残されるシニアもいる。
内野さんは、国会図書館や複数の大学図書館で働いてきた。その経験から「図書館で勤める人たちに目がいく」と話す。カウンターのスタッフが年度で代わり、相談してもアルバイトの人なのか、奥の事務所へ聞きに行くこともあるという。
「前面に立つ人がもっと安定してほしい。勤める人の資質が向上しないと、本当の図書館の役割が果たせないのでは」と話す。いまは予算などの問題で、逆方向に進んでいる部分もあるとみている。
呑海さんは「図書館の対象者別のサービスで、子ども向けは比較的、浸透している」と話し、人口割合の高いシニア向けサービスが不十分とみている。シニア向けサービスが歴史的に障害者向けの一環だった経緯もあり、独立した対応が遅れている図書館もあるという。
「拡大鏡など備品の提供は増えているが、高齢者向けイベントは普及しているとはいいがたい」(呑海さん)という。
「図書館は誰もが来ることができる。利用者で認知症の高齢者は増えている」と呑海さんは指摘する。認知症の人が関係したトラブルの何割かは、図書館のスタッフがきちんと相手のことを理解して対応していなかったからとみており、スタッフの資質の向上に期待する。
高齢化社会で、図書館の役割はますます重要になっている。(本誌・浅井秀樹)
※週刊朝日 2023年1月27日号