お弁当が冷めないように保温仕様の大きなリュックを背負ったスタッフのSさんが、久しぶりに歌舞伎町に来たという私に、歩きながらいろいろ話してくれた。

「あそこで女性に声かけてる男たち、見えます? あれ、ホストクラブの客引きしてるんです。初回で入ってくれたら、男たちにバックが入るんです」

「このビルは全部ホストクラブ、全部です。1月はこのビルから飛び降りてしまう女の子がたくさんいるんですよね……12月はイベントが多くて、たくさんお金を使わせられるから、1月に払えなくなっちゃって」

「飛び降りは、この街では珍しくないです。あのホテル、非常階段に出やすいんです。だから飛び降りの名所みたいになってる。子どもが亡くなったからニュースになったけど、飛び降りは、ぜんぜん珍しくないんです。12月はみんな、死にたくなるんです」

 Sさん自身が10代にこの街で過ごしたという。家族からの虐待から逃れるためだ。「歌舞伎(町)に殺されて、歌舞伎(町)に生かされたんです、ハハハ!」と歌うような感じで、自分の人生やこの街のこと、この街に集まってくる女性たちの話しをしてくれた。歩きながら何人ものホストとすれ違った。ホストクラブの客引きの男性たちの前を何度も歩いた。当たり前のようにマスクをしていない若い男性が多いことも気になるが、これほど歌舞伎町にホストクラブが乱立していることも私は初めて自覚した。居場所を失う女性たちに、この街は寛大に見える。賑やかに自分を受け入れてくれるようにも見える。寂しさを埋めるしかけはあちこちにある。お金をたくさん使っても、お金はすぐに稼げるよと甘い声が聞こえてくる

 細い路地を歩いていると一枚の広告が目に入った。若い女性数人が団らんする様子が描かれている女性専用シェアハウスの広告だ。1カ月6000円の安さに驚いていると、Sさんが「これ、出会い系カフェの会社が運営しているんです」と教えてくれた。その住所で住民票をつくれるため利用しやすいが、風俗の勧誘もセットで入ってくるという。そこまでするんだ!?と思わず叫ぶように言うと、「若い女の子がいつもたくさん必要な世界だから」とSさんは、お弁当の入ったリュックのベルトを直しながら普通の声で言うのだった。

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私からしたら幼い顔をした「女の子」だ