50年に及ぶ格闘人生を終え、ようやく手にした「何もしない毎日」に喜んでいたのも束の間、2019年の小脳梗塞に続き、今度はうっ血性心不全の大病を乗り越えてカムバックした天龍源一郎さん。人生の節目の70歳を超えたいま、天龍さんが伝えたいことは？ 今回は「対戦したかった相手」をテーマに、つれづれに明るく飄々と語ってもらいました。
【写真】天龍さんが「対戦」してみたいハリウッド俳優はこちら！
＊ ＊ ＊
対戦してみたかった力士は、恐れ多いけど“角聖”と言われた双葉山さんだ。力士は肌を合わせて、たった指一本差されただけでも「この人はすごい、強いな」と分かるものなんだ。双葉山さんが現役のときは、足腰がすごく強く、まさに土俵に根が生えたという表現がぴったりの印象。四つになっても動かなくて、相撲に貫禄があった。
自分のいた部屋でいえば大鵬さんがそんな感じだったね、どっしり動かなくて、強い。実際に双葉山さんと組んでみて、その強さを体感してみたいね。もし、双葉山さんと対戦できるとしたら、勝てるとは思わないけど、突っ張ってはたいて、ときには蹴手繰（けたぐ）りも出したりすることで勝機を見出すだろうね。俺の相撲はがっぷり四つよりも、突っ張りの性格で、正攻法じゃない。突っ張って押すには、引き足がないと土俵を割っちゃうから、北の富士さんが冗談で言う“黄金の引き足”も使って、回り込んで蹴手繰りして、どうにかやるしかないね。
もうね、双葉山さんほどの大横綱になると対戦するだけで満足しちゃうよ。横綱と初顔合わせ相撲を取らせてもらえる、結びの一番で取らせてもらえる、それだけで十分。俺も九州場所で三役揃い踏みをやったときは、それだけで満足したもん（笑）。そもそも、俺がまだ十代の下っ端のころ、親方が相撲協会の幹部会に参加するのについて行ったとき、羽黒山さん、照國さんはじめ、そうそうたる面子と並んで理事をやっていたのが双葉山さんだ。十代の頃のその印象が強いから、今でも俺にとってものすごい存在。
