約20年前から、フィンランド南西部でフィールドワークを続ける千葉大学の高橋絵里香准教授(文化人類学)は、
「最近、北欧的平等主義が難しくなりつつある」
と指摘する。特に福祉の面で顕著だという。
「理由のひとつは、介護ビジネスの国際的な企業が進出していること。その結果、所得の差や地域によって受けられるサービスの質に違いが出ている」(高橋准教授)
昨年、社会医療制度改革が議会を通過した。社会福祉と医療制度を統一し、自治体よりも大きな枠組みでサービスを提供し、標準化するねらいだ。
■税金は暮らしに還元
国全体で施設ケアから在宅ケアに重心を移す計画も進む。すでに多くの施設が閉鎖されてきたが、代替先であるはずの訪問介護サービスは、人手不足が深刻で、加速する高齢化に追い付いていないという。在宅ケアを行う介護者への保障制度も整備されつつあるが、まだ十分とはいえないのが現状だ。
増大する社会保障費を支えているのは、高い税金だ。日本の消費税にあたる税金は24%。書籍にも10%の税金がかかり、所得税も高い。油田などの天然資源がない国なので、ガソリンなどの燃料も軒並み高額だ。
「でも、高速代は無料だし、税金は暮らしに還元されているという実感がある。給与水準も高く、生活が守られている。不満はないです」
そう話すのは、関西出身の山田雄人さん(仮名)。大阪に留学中だったフィンランド人の妻と出会い、結婚した。別居婚を経て16年1月、ヘルシンキに移り住んだ。同居する場所としてフィンランドを選んだ理由は、日本での山田さんの長時間労働を目の当たりにした妻の希望だ。
山田さんは、移住前に遊びに来た時、地下鉄の路線図を見て驚いたという。
「ドーンと1本だけ。なんてシンプルなんだと思いました(笑)。すべてにおいて合理的でわかりやすい国。余暇もきちんと取れる。ここなら暮らせる、と感じた」
(編集部・古田真梨子)
※AERA 2022年8月8日号より抜粋