病院では面倒見の良い看護師がDさんの異変に気付き、親身になって話を聞いてくれた。「それはおかしい」「体調に追い討ちをかけているから、旦那から離れた方がいい」と、その場で親に電話するように言われた。「親には心配をかけたくない」と病気のことも夫のことも伏せていたDさんだったが、気づけば泣きながら親に電話していた。電話を切るやいなや、その日の便で新幹線に飛び乗ってやってきた両親に連れられ、しばらく実家で過ごすことになった。
◆「離婚した私はもう100点じゃない」
それから約半年後に離婚が成立。体調も回復して一人暮らしに戻った。もう夫にビクビクすることもなく、自由に過ごせる。待っているはずだったが、なぜか晴れ晴れした気持ちになれない自分がいた。
離婚を機に、親からは「もっと自分の人生を楽しめ」と言われたことも、娘を心配する親心であることは分かっていたが、素直に受け止められなかった。厳しかった両親に躾けられ、「親にとって100点の自分でいたい」と頑張ってきたDさん。
「離婚した私は、もう100点の娘じゃない……」
せっかく自由を手に入れたのに、「私は結婚に失敗したんだ」「そばにいる人がいないんだ」という思いが胸を渦巻く。
元々、結婚願望はそこまで強くはなく、誰かと常に一緒じゃなくても一人でも生きていける、結婚前まではそう思っていた。だがモラハラ環境から脱したいま、なぜか一人でいることのつらさが初めてのしかかった。そのことも「私って、こんなに相手に依存する人なんだ」とショックだった。
これは、いつまで経っても軽くならない被害者の心情の一例だ。
「モラハラ環境から離れた今の方が辛い」「離れてからの方が、心が不安定な気がする」 「やはり私に原因があったのかもしれない」「モラハラが原因だと思ったけれど、本当は違ったのではないか。私に問題があるから、相手はあんな風に怒ったのではないか」——モラハラ被害にあった人の中には、実はモラハラ環境から脱出した後になって苦しみを訴える人が少なくないという。やっとの思いで加害者の元を抜け出せたのに、新たな苦しみに襲われるとは、どういうことなのか。