「初婚の相手よりは、まだ自分に対して思いやりを持ってくれていると感じる。何より、今度は離婚したくない」とDさんは言う。

◆相手に合わせることが染みついてしまった

 モラハラ環境から脱した後も、被害を受けている時の心理状態を引っ張ってしまい、被害者心理が自分のパーソナリティだと錯覚することで、他者との関係性が築きづらくなるケースもある。例えば、モラハラの被害者は、自分の意思で物事を決定することができなくなっていることが多い。モラハラ環境にいる時は、どんな決定をしても、加害者のイメージ通りでなければ否定されてしまう。だから自分の考えよりも、相手が容認するであろう内容を選択する癖が身についてしまうのだ。そのため、自分の考えを相手がどう受け取るかを気にしすぎ、相手の顔色をうかがうという習慣からなかなか抜け出せない。

 前出のDさんも、モラハラ経験を経たことで、友人や同僚との会話でも「相手の顔色を無意識にうかがってしまう自分がいる」という。「全方位的に良い人でいないと嫌われる」と感じ、自分の意見を堂々と口にする人に畏敬の念を抱く。昔の自分が、周囲に動じずに意見を言えたことを忘れて、だ。元々の性格はそうでなかったのに、いつの間にか「私はこういう性格だ」と被害者時のパーソナリティを引っ張ってしまう。

 夫婦問題カウンセラーの高草木陽光さんが言う。

「モラハラ被害者は、相手に合わせることが染み付いている人が多い。これから親しくなろうとする人、親しくなった人とうまくいかないと感じる人も少なくありません。相手の顔色をうかがうことを続けていると、いつまでも他者と対等な関係が築けないし、何より自分が苦しい。時間がかかったとしても、自分の意思で物事を判断していけるよう、意識的に取り組むことが大事です」

 Dさんはその後、どうなったか。自分の気持ちを守るために、我慢するばかりではなく、自分も「そんな言い方しないで」「私のやり方はあなたと違う」などと夫に対して主張するようになった。最初はDさんの主張に否定的だった夫だが、粘り強く自分の気持ちを伝えようと努力する中で、少しずつ変わってきた部分もあるという。

 モラハラは一種の洗脳。大切なのは、本来の自分を見失わないことだ。自分の人生は、誰かが決めるのではなく、自分で作る。そう信じて、一歩を踏み出してみてほしい。次回は専門家にきいた具体策を紹介する。(松岡かすみ)

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