◆無意識のうちに同じタイプを選ぶ

 ちょっとしたことで涙が溢れてきたり、なかなか寝付けなかったり、まるで自分自身が壊れているかのように感じる。モラハラによって、じわじわと傷ついてきた心は、モラハラ環境から離れた安心感とともに、離れてから痛み出すことが多いという。安心したからこそ、傷ついていた心がやっと自分の傷を感じ、痛みを訴え始めるのだ。『カウンセラーが語るモラルハラスメント」などの著書があるカウンセラーの谷本惠美さんは言う。

「モラハラ環境から脱した後の方が辛いという人が多いのは、モラハラという攻撃を受けていた最中は、痛みに気づくゆとりもなかったから。それに気づいてしまうとその場所にいられなくなるので、無意識のうちに気づかないふりをしています。モラハラ環境にいる最中に痛みを感じなかったのは、被害者が感覚を麻痺させていたから。辛い、しんどいと感じることは、自分の心や感覚をやっと取り戻したということです」

写真はイメージです(Getty Images)
写真はイメージです(Getty Images)

 しかし、その状態を放っておくと、傷ついた心がそのままその人のパーソナリティになってしまいかねない。傷ついた心は、意外な形で悲鳴をあげる。落ち込んだりうつ状態になったり、常に怒りを抱えていたり、人を信用できなくなったりなど、さまざまな形で日常生活の中に影響をもたらす。

 さらには、せっかくモラハラ環境から脱出した後に、また別のモラハラ環境に自ら飛び込んでしまうこともあるという。谷本さんは、こう指摘する。

「モラハラ環境から抜け出した人が、またモラハラ気質な人を選んでしまうということは、珍しいことではない」

 モラハラ被害者の中には、無意識のうちに「私が悪いわけじゃなかったということを証明して納得したい」という思いを持つ人がいる。その手段として「もう一度リベンジする」ことを選んでしまう人が少なくないという。

「例えば少しモラハラの片鱗が見えたとしても、良いところだけを見て再婚するというケースもあります。私が彼をあんなにしたのではないという確信がほしいと、無意識のうちにまた同じような人をわざわざ選んでしまう」(谷本さん)

 まさに、Dさんだ。

 それから2年後、友人を介して知り合った現在の夫と再婚。冒頭で紹介したとおりに、現在の夫もモラハラ気質だった。

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