写真はイメージです(Getty Images)
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 また、モラハラ攻撃を受けてきた被害者は、自分を否定するようになりがちだ。被害者だと気付き、今の生活から逃れたいのに、なかなかそこから離れられない。自分に自信が持てず、「この先一人でやっていくなんて無理だ」と考えてしまう。昨日は「モラハラなんて嫌だ、脱出したい」と思っていたのに、今日は「やはり相手を怒らせる私が悪い」「一人で生きていくことができない」とうつむいてしまう。このように相反する二つの思いを行き来し、揺れ動く状態もまた被害者心理だ。

 前出の谷本さんは言う。

「モラハラに気づけたということは、モラハラ環境の中でも破壊されないで、本来の心が根強く残っている証拠。こうした揺れは、モラハラ環境から脱出しようとする多くの被害者が経験することです」

 モラハラのもっとも恐ろしい点は、被害者の性格を変えてしまいかねないことにある。否定的な発言を浴びせられた結果、自分が悪いと思い込む考え方に変わってしまうのだ。

 周囲は投げかける言葉を誤らないように注意したい。

 例えば、「そんな風に思っていたら前に進めない。そんな考えは捨てたほうがいい」という言葉。被害者からすれば、ダメ人間だと言われているように感じ、「自分が依存的で弱い人間だから次に進めないのだ」という思いを強くし、ますます抜け出しにくくなる。また、「依存的になっているのでは」「臆病になっていないか」と、早く前を向かせようとする言葉も被害者を追い詰める。

「支援者は、被害者心理がどのように動くのかを理解していないと、接し方を誤ってしまう。接し方一つで、被害者が被害者心理を自分のパーソナリティとして固定化させてしまうことに一役買ってしまいかねないので、モラハラだからとにかく脱却、ではなく一人ひとりの心の状態をきちんと見た上で声をかけなければなりません」(谷本さん)

  またようやく、モラハラ環境から脱した後も気を付けてほしい。モラハラを受けている時の経験を一切合切、心の奥に封印し、「私はもう大丈夫だ」と自分に言い聞かせる人は多い。無理に封じ込めようとすると、思いがけないところで意図せず吹き出てしまうことがある。

「モラハラ経験による過去の感情が、別の相手によって浮き上がり、その相手に怒りの感情を流し込んでしまうことはよく見られます。過去を封印している被害者は、どうして自分の心が波立つのか分からないまま、無自覚に目の前の相手にぶつけてしまうのです。そのため、人間関係をこじらせることも多く、そんな自分に疲弊してしまう」(谷本さん)

 そうならないためには、きちんと自分の心に向き合うことが大事だ。モラハラという被害を経験して、どんな影響を自分が受けているのか、その影響でどんな行動を自分がとっているかを知る。その上で、それは本来の自分の生き方やモラルに沿ったものなのか、この先どう生きていきたいのかを考える。谷本さんは言う。

「知り、考えたことを胸に抱いて、自分を信じて自分の人生を歩くこと。そうすることで、自然とモラハラ問題から遠ざかっていく」

 自分を生きる。結局のところこれに尽きる。自分の人生は、誰かが決めるのではなく、自分で作る。そう信じて、一歩を踏み出してみてほしい。(松岡かすみ)

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松岡かすみ

松岡かすみ

松岡かすみ(まつおか・かすみ) 1986年、高知県生まれ。同志社大学文学部卒業。PR会社、宣伝会議を経て、2015年より「週刊朝日」編集部記者。2021年からフリーランス記者として、雑誌や書籍、ウェブメディアなどの分野で活動。

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