北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。女性のためのセクシュアルグッズショップ「ラブピースクラブ」、シスターフッド出版社「アジュマブックス」の代表
北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。女性のためのセクシュアルグッズショップ「ラブピースクラブ」、シスターフッド出版社「アジュマブックス」の代表

 SNSでは三省堂の辞典制作の過程に女性がいないのではないか、という声もあったが、同じ三省堂から出版されている「新明解国語辞典」の編者は男性しかいないが、フェミニズムを「政治的・経済的・社会的に、性別による差別を解消し、女性の権利を確立することで平等の実現を目指す理論と運動」と定義している。今回の改訂された三省堂国語辞典については、いつもの“オジサン”がやらかしてしまった事件というよりも、もしかしたら、新しさや「今の時代のかがみ感」を意識するあまりに、そしてまたもしかしたらフェミに関心のある人が関わったからこそ「改定」されてしまった記述である可能性もある。

 というのも、このくらいのゆるく雑な定義のほうが、今のフェミの感覚なのかもしれない……と思わされることはリアル社会でもよくあるからだ。

 例えば、性暴力を抗議する運動の場でもよく見受けられることだが、女性の被害を訴えるときに必ず「男性にも被害者はいます」と補足したり、男性からのハラスメント問題を語っているときに、「女性が加害者になることもあります」と言ったりする人は少なくない。「女性差別反対!」というプラカードを掲げる人に、「すべての差別に反対、と書くべきでは?」と言う人もいた。それが間違っているとまでは思わないが、自分の身に起きた理不尽を語る女性に対し、これは女性だけの問題ではないですよ、と注意深く全方向に配慮しながら語らせようとする「正しい力」とはいったい何だろう。

 私が知るフェミニズムは、性差別の構造的問題を明らかにしてきた理論であり実践である。例えば、男がセックスを買うのはあたりまえ、という「あたりまえ」を支えている構造の解体を試み、「性売買」の定義を変えてきたのはフェミニズムだ。1970年代に「売春」を「買春」と言い換えて、さらに今は、性売買の現場で行われていることを明確にするために「性搾取」という言い方が一部のフェミニストの中では定着してきている。また以前は、「痴話ゲンカ」「夫婦ゲンカ」とされてきたもののなかに、権力構造があり、深刻な性暴力があることを「発掘」し、それを司法で解決できるように運動してきたのもフェミニズムの成果だ。

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「あたりまえ」に恩恵を受けてきた人たちの利権を侵害