作家・北原みのりさんの連載「おんなの話はありがたい」。今回は、「フェニミスト」の定義について。
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改訂出版されたばかりの三省堂国語辞典の「フェミニズム」の項目がSNSで話題になっている。「暮らしの中にあふれることばを集めました。辞書はかがみ。8年ぶりの全面改訂」をうたう新しい三省堂国語辞典によれば「フェミニズム」とは、「男も女も性的少数者も平等にあつかわれるべきだという<考え方/運動>。[以前は『女権(拡張)論』などと訳された]」だそうだ。
SNSでは、「フェミニズムを説明するのに、なぜ『男』が先にくるのか」「フェミニズムは女性のものだ」というフェミニストたちのまっとうな怒りが見受けられるが、三省堂の新定義によれば、「男」が「女」より先に記述されるくらいで腹を立てるのは古いタイプのフェミニスト……ということになってしまいそうだ。
もちろん、私もハ?の思いである。人生の大半、フェミニズム思想に触れ、フェミニストたちと交流をしてきた者からすれば、三省堂さん、フェミニズムにそこまで期待しないで……と言いたい。男も女も性的少数者も……ってつまりは全人類のことだと思うが、人類誰もが平等に扱われるべきだと私も願ってはいるものの、フェミニズムの定義としては雑過ぎるし、荷が重いでしょ。
ちなみに2018年に改訂された最も権威ある日本語辞典とされる広辞苑によれば、フェミニズムとは「女性の社会的・政治的・法律的・性的な自己決定権を主張し、性差別からの解放と両性の平等とを目指す思想・運動。女性解放思想。女権拡張論」である。オックスフォード辞典(英語)でも、「女性も男性と同じ権利と機会を持つべきであるという信念と目標、この目標を達成するための闘い」と記されている。そう、これがフェミニズム。フェミニズムとは、昔も今も、両性の平等を目指す思想、なのだ。そしてそれを築いてきたのは、当事者の女性たちである。三省堂のフェミニズムの定義は、その歴史をなかったことにするかのような、ゆる過ぎるフェミ定義というものだろう。