「例えば『男性の方が高年収、正規雇用で働きやすい』と言われると、当てはまらない非正規の男性は余計に傷つきます。世間的に言われることと自分の状況との違いに悩む人は大勢いる。統計データから見える社会構造上のジェンダーギャップを元に個人の生きづらさを考えるのは適切ではないでしょう」

 同フォーラムは、最初期の男性相談窓口である「『男』悩みのホットライン」を前身に持ち、男性からのあらゆる相談を受けてきた。ここ数年、悩みには大きな変化が見られる。かつては性的指向や性自認に加え、性器についてや性嗜好(フェチシズム)まで含めた「性」の悩みが多かったが、2011年ごろを境に大きく減少。スマホが普及して基本的な情報を得やすくなったほか、性的指向や性自認については専門窓口ができるなど社会的な認知・理解が進んだことが影響していると福島さんは分析する。代わって増えたのが、「性格・生き方」についてと、「その他」だ。

 同フォーラムでは相談内容を10のカテゴリーに分類し、どれにも当てはめられないものを「その他」として計上している。その他は14年までは10%以下で推移してきたが、最近は20%を超える。1、2回目の緊急事態宣言中に限ると28%に上った。

「何かしらの悩みを口にするものの、そのこと自体に悩んでいるというより、誰かと話したいのかなと感じる電話が多いです。人生の指針に悩む『生き方』の相談も増えている。男性が本音で語り合える場を作ることが必要だと感じます」(福島さん)

■トレードオフではない

さて、ここまで男性が抱える生きづらさについてみてきたが、男性の、あるいは女性の生きづらさをテーマに論じると、「いやいや女性(男性)の方が」といった反発や性差の対立が起こりやすい。SNS上では最近、性別役割の固定化につながりそうなサービスや商品について一部の女性が抗議の声をあげ、それに対して大勢の男性が反発する事例が相次ぐ。だが、ジェンダー問題の解決に必要なのは対立ではなく、共通課題を見つけ、乗り越えることだ。前出の多賀太教授は言う。

「女性の地位向上と男性の生きづらさ解消は、どちらかをやるならどちらかが失われる『トレードオフ』のように捉えられがちですが、そうではありません。社会全体で男女の格差が縮まり、『男だから』『女だから』という縛りが少なくなったほうが、男女ともに最大公約数的な生きやすさは増すはずです。日本が経済成長するためにも男性稼ぎ手モデルでは持たないことは明らかです。男性の生きづらさと女性の生きづらさを両方生じさせている共通の原因を見いだし、協力してそれを変えていく発想が重要でしょう」

(編集部・川口穣)

AERA 2022年1月31日号より抜粋

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川口穣

川口穣

ノンフィクションライター、AERA記者。著書『防災アプリ特務機関NERV 最強の災害情報インフラをつくったホワイトハッカーの10年』(平凡社)で第21回新潮ドキュメント賞候補。宮城県石巻市の災害公営住宅向け無料情報紙「石巻復興きずな新聞」副編集長も務める。

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