しかし、韓国エンタメのベテラン記者は「SM社のアーティストは、次世代のアイドルのカタチではない」と指摘する。

「SM社がプロデュースするアイドルは、事務所が頭で考え用意したアイドル像をファンに与えるもの。それは一方通行でしかありません。IT化が進んだデジタル社会において、アーティストたちに必要とされているものは、 “ファンとの双方向のコミュニケーション”です。自分たちの言葉で語り、SNSなどデジタルのサービスを使ったファンとのコミュニケーションを欠かさない、ファンの求めるものを知り、ファンにアプローチできるツールを持った者が生き残っていく。パラダイムは変わったのです」

 2021年3月に発刊された『韓流白書』(韓国国際文化交流振興院刊)にも、海外のK─POPファンがK─POPに引かれる理由のひとつに、音楽性やアーティストの魅力の他にアーティストのファンサービスを挙げていることに触れ、これは「K─POPだけが持つ特殊性」と指摘している。

 ファンとのコミュニケーションを重視する戦略。そうした点からいえば、韓国エンタメ産業界で一歩先の動きを見せているのはHYBE社だろう。

 BTSの成功にともない、多角的な経営を進め、また韓国内の他の音楽事務所を次々と買収し所属アーティストのラインナップを増やしていたその矢先の2021年3月19日、それまでの「Big Hitエンタテインメント」から「HYBE」に社名を変更することを発表した。

 HYBEとは、「連結、拡張、関係」を表わしているという。社名変更の発表の席で、同社のCEO(当時)パン・シヒョク氏は、「事業の領域が広がるなかで現在の事業をまとめてこれをつなげ、さらに拡げていける新しい社名の必要性を感じた」(韓国経済新聞、同3月21日)とその背景を語った。

 前年の上場時にパン氏は「音楽やアーティストを通して、すべての人々が暮らしにやすらぎを感じてもらえる、最高のエンタテインメント・ライフスタイル・プラットフォーム企業」を目指すことを公言していたが、それが社名にも表れるかたちとなった。

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HYBE社の野心的な動きが加速