韓国エンタメ界を驚かせたのは、4月、アメリカのエンタテインメント総合グループ「イサカ(Ithaca)・ホールディングス」を10億5000万ドル(約1150億円)で買収したことだ。イサカ社は、ジャスティン・ビーバーやアリアナ・グランデを擁するマネジメント会社を傘下に置き、マネジメント業以外にも音楽関連の出版、ベンチャー企業支援などさまざまな事業を展開している。前出のベテラン記者は語る。
「HYBE社の強みは、ファンを広げていく、ファンコミュニティ・プラットフォーム『ウィバース』を保有していることです。イサカ社のような企業にないプラットフォームが彼らに斬新に映った。今後はこうしたデジタルサービスによってスターを誕生させ送り出そうとしている」
韓国の証券業界も、ウィバースにイサカ社が将来性を見たと分析し、「IT技術とエンタメ産業が融合した新しいビジネスモデルになるかもしれない」と評した。日本企業の動向にも詳しいM&Aを専門にしているファンドマネジャーは、「ソフトバンクと似ている」と分析していた。
「ソフトバンクは通信業に軸足を置いた投資企業ですが、HYBE社は音楽産業に軸足を置いて、投資を繰り返しながら事業を拡張していこうとしているように見えます」
HYBE社の韓国内での事業展開は、すべて米国へ、世界へビジネスを広げる“序章”だった。前出のベテラン記者は「HYBE社のこの動きによって、韓国内の他の音楽事務所との格差はケタ違いに広がっていくでしょう」と指摘していた。
HYBE社を追うように、SM社も同社のファンサービスアプリ「バブル(Bubbl e)」に力を入れ始めた。「LINE」のようなチャット感覚でアーティストのメッセージを受け取り、ファンからも返事を送信できる(アーティスト側は個別の対応をしないが)。同サービスには「少女時代」などが参加している。
ネットサービスの世界では、HYBE社はYG社との協力関係を強めているが、SM社のバブルにはJYP社が資本提携し、「NiziU」や「TWICE」など自社のアーティストを参入させている。
HYBE社の動きは、韓国のエンタメ界のパラダイムを確実に変えてきている。これまで「海外に進出し、韓国文化を認めてもらう」ことを考えてきた「韓国のエンタメ企業」に、エンタテインメントのプラットフォームを制して「グローバルプレイヤー企業たろう」という視座が生まれたのだ。
そのパラダイムからは、どんなスターが生まれてくるのだろうか。
(在ソウル 菅野朋子)