シーズン開幕後、自宅で療養するギプス姿の門田に、幼い子どもたちが尋ねた。「お父さんは本当に野球選手なの?」。門田は「ああ、そうだよ」と答え、「来年はオールスターに出て、ホームランを打つ」と約束したが、この時点では、まだ復帰できるかどうかもわからない。言ってから「しまった!」と思ったそうだが、もうあとには引けない。
同年9月に1軍復帰をはたした門田は翌80年、6月までに20本塁打を量産し、監督推薦でオールスターに出場すると、7月19日の第1戦の7回に代打で登場。右越え2ランを放ち、見事子どもたちとの約束をはたす。
これまで本塁打を打ってもジェスチャーひとつ見せなかった門田が、スタンドで観戦する家族に向かって「父さん、やったよ!」と言いたげに高々と手を挙げて見せた。
復活後の門田は81、83、88年と生涯3度の本塁打王に輝き、44歳まで現役を続けた。(文・久保田龍雄)
●プロフィール
久保田龍雄/1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。最新刊は電子書籍「プロ野球B級ニュース事件簿2021」(野球文明叢書)。