「65歳で会社を辞めるときに考えたんです。会社のおかげで安定した生活を送れたが、最後の5年間、人材開発や社員教育の仕事ができたので、会社に恩返しができた気分になりました。それで、よし、これからは違う世界で社会に恩返ししたいと思ったんです」
退社時期に合わせて資格を取った。会社員時代は自分の経験談を話してきたが、「本物のキャリアカウンセリングをするには、基本となる理論を身につけないとダメ」とわかったからだ。
実務経験がないので働き先を見つけるのに苦労したが、先輩コンサルタントに教えられた東京都の外郭団体で何とか職を得た。
仕事は「65歳以上の人を雇ってくれる企業を探して、職を求める高齢者とマッチングすること」だ。
「と言っても、仕事の8割は企業探しですね。65歳以上の求人を出している会社を見つけて連絡、アポを取って1日2社とか回っています」(高橋さん)
前述したように、法改正で70歳までの就業機会の確保が企業の「努力義務」になったが、実際の65歳以上の就職の現実は厳しい。
「現場が全然ついていってない面があります。でも、雇ってくれる企業もあります。昨年度は私が面接に同行した35人のうち半数以上が採用していただけました」(同)
都の外郭団体には72歳まで勤めることができる。高橋さんは、実務経験を積んで今後はどこでも通用するようなキャリアカウンセラーになりたいと、早くも「生涯現役」の構えだ。
本田さんと高橋さんは、奇しくも「元気な高齢者へ向けた仕事づくり」という同じ分野で社会への貢献をめざしている。本田さんは大企業などの組織に制度づくりを働きかけている。一方の高橋さんは、地道に企業訪問を繰り返す日々だ。(本誌・首藤由之)
※週刊朝日 2022年8月12日号より抜粋