![小佐野彈(おさの・だん)/1983年、東京都生まれ。慶應義塾中等部在学中に作歌を始める。慶應義塾大学大学院進学後に台湾で起業。現在、台北市在住。2018年に第一歌集『メタリック』を刊行。19年に短歌界の芥川賞と呼ばれる第63回現代歌人協会賞を受賞(photo 篠塚ようこ)](https://aeradot.ismcdn.jp/mwimgs/8/0/840mw/img_80ff97b3ac01d9408462a63e990fc2b955074.jpg)
AERAで連載中の「この人この本」では、いま読んでおくべき一冊を取り上げ、そこに込めた思いや舞台裏を著者にインタビュー。
【画像】小佐野彈さんの著書『僕は失くした恋しか歌えない』はこちら
『僕は失くした恋しか歌えない』は、短歌界の気鋭・小佐野彈さんの初の長編小説。裕福な一族に生まれ、何不自由ないフリをしていた「僕」。しかし同級生男子への思いを綴った「妄想ノート」がクラスの女子に見つかってしまい──? と展開する、著者の自伝的青春小説。過去に詠んだ短歌、そして過去の自分に“憑依した感覚”で詠んだ新作短歌が現代仮名遣いで行間に挟まれ、主人公の心象を自然に、鮮烈に伝える。小佐野さんに、同書にかける思いを聞いた。
* * *
短歌界の気鋭・小佐野彈さん(38)の初の長編小説『僕は失くした恋しか歌えない』は、オープンリー・ゲイである自身を投影した自伝的な作品だ。15歳から22歳までに出会った恋を、みずみずしく切ない短歌と文で編み上げた。
「短歌は基本的に“私(わたくし)性”の文学なので、小説でも自分のことをさらすことに抵抗はないんです。ただ今回は主人公にも自分の名前を使い、登場人物にもすべてモデルがいる。正直、書くことに足踏みをした部分もありました」
特に迷ったのが高校時代に出会った“アイコちゃん”のエピソードだ。風のように現れて儚(はかな)げに消えた美少女は、作中でも強烈な印象を残す。
「彼女のことは胸に長い間引っかかってきたんです。触れることで傷つく人がいるかもしれない、と葛藤しましたが、僕にとっては永遠に忘れられない人。書くことで残しておきたい、と決断しました」
<触れないでください、胸に割れそうな水風船を隠しています>。行間に挟まる短歌が主人公の心象を挿絵のように鮮やかに映し出す。
「短歌とは“漏れてきてしまうもの”です。心のなかでギリギリまで溜まったものがポロッとこぼれてしまう、その最後のひとしずく、みたいなもの。自分の心の一番真ん中をあぶり出してくれる短歌を挟むことで、自分のことでありながら“小佐野彈”をどこか客観的にみて、自分自身に憑依(ひょうい)するような感覚で書くことができた。ノンフィクションとフィクションのあわいのようなものを、歌を紡ぐことで表現したつもりです」
![](https://aeradot.ismcdn.jp/mwimgs/4/d/120m/img_4dada8ca82728cf041e1cacfa35d301b238733.jpg)