
裕福すぎるほどの家庭に生まれ、そこから飛び出し台湾で会社を起こしたことなど家族についても赤裸々に描写した。
「いま“親ガチャ”なんて言われますけど、自分が恵まれている自覚はずっとありました。日本にいる以上、僕のマイノリティー要素はゲイであることだけなんです。そんな自分が『大変だった!』というのはおこがましいというか、ためらいの気持ちは強かった。でも台湾にいると外国人という要素が加わり、家の看板もついてまわらない。それにやっぱり自分なりに苦しかったことはあるんです。台湾にいるからこそ、すべてに正直に向き合って書けたと思います」
台湾はアジアで初の同性婚を認めている国でもある。
「ゲイとしての暮らしやすさはたしかにあるし、もちろん同性婚は基本的な権利として大事だとは思います。でも僕にはLGBTQなどの区分をきっぱりと分けることもどうかなという思いがある。実際、僕の彼氏はノンケで、でも僕と付き合ってくれています。彼は自分を性的に“なにか”だと規定していない。それでいいんじゃないかな、と思うんです。歌や文学でもそうしたくびきを飛び越えたい」
物事は二元論ではない。あわい、グラデーションこそが人間。小説と短歌のあわいとなった本作に、すべての思いが込められている。(フリーランス記者・中村千晶)
※AERA 2022年2月7日号