表現と権力の関係について監督に訊くと、「僕らは『今』を伝えなければならない。自分たちが置かれている状況をアートは表現すべきだ。美しいことも醜いことも、アートは真実を描く。アートの中に自分を見る。真実を描くことで偏向だと言われることもある。でも、僕は映画人としてアートで真実を伝えていく」
権力に対抗する闘士を描く作品だが、決して無骨ではない。すみずみまで監督の美意識が反映され、調度品は品が良く、グラスの輝きも見事だった。それは香港の映画監督、ウォン・カーウァイから触発されたという。
監督は主人公にプラダのドレスを着せている。
「当時、黒人は飛行機に乗る時におしゃれをしました。現実の貧しさを一瞬でも忘れるために。だからファッションに気を使ったのは僕の祖父母へのオマージュでもある」
リー・ダニエルズ監督の言葉に、貧困に負けなかった彼のファミリーの意地を見た。
延江浩(のぶえ・ひろし)/1958年、東京都生まれ。慶大卒。TFM「村上RADIO」ゼネラルプロデューサー。国文学研究資料館・文化庁共催「ないじぇる芸術共創ラボ」委員。小説現代新人賞、ABU(アジア太平洋放送連合)賞ドキュメンタリー部門グランプリ、日本放送文化大賞グランプリ、ギャラクシー大賞など受賞
※週刊朝日 2022年2月11日号