それでも、やはり人工雪の“硬さ”には注意が必要だと話す。
「人工雪が日なたで溶けてデコボコになった状態から日陰になって冷やされると、デコボコのままコンクリートのような硬さになってしまう。そうなればミスが起きやすく、着地が不安定になって転倒しやすい。その時のコンディションをしっかり把握する必要があります」
人工雪が硬くなったところに転倒すればけがのリスクはあるが、今回の芳家さんのけがに関しては「人工雪だから起きたものではないと思う」と語る。
「着地の際の衝撃に関しては、天然雪のほうが多少クッションがある程度で、正直、あまり変わらない。自分自身、シャバシャバの状態の天然雪でも、着地の衝撃に耐えきれず、背骨を折ったことがありました。今回はジャンプ競技の着地でけがをした選手が多いですが、世界で戦う選手たちは高さ5~6メートル以上のところから着地しているわけです。ビルの3階から飛び降りるようなもので、その高さから落下して転倒すれば、雪の硬さに関係なくけがはします」
成田も現役引退から数年後、脊椎損傷のけがをしている。ジャンプ台から斜めに着地するべきところを垂直方向に着地してしまい、膝で衝撃を受けきれず背骨にまで衝撃が及んでしまったという。
「競技中はアドレナリンが出ているので、痛さは感じないのですが、腰が抜けたような感覚になりました。『あれ?立てない』となって担架で運ばれたのですが、後からじわじわ痛んできて、救急車で運ばれました。オリンピックのジャンプ台と比べると、なんてことはない高さだったんですけどね……」
医者からは「絶対安静」と言われ、病院のベッドから起きられない生活が、1カ月半ほど続いた。つらい日々を思い起こし、欠場した選手に心配と期待を寄せる。
「ひどいけがをすれば、トッププロでもトラウマになり得ます。その後に活躍できるかは、トラウマを乗り越える勇気にかかってくるので、選手のメンタルケアが本当に大事だと思います。挫折を味わう分、一度それを乗り越えてしまえばかなり強い選手に育つはず。トラウマを克服した選手は、同じミスをしないという心を持ち続けられるので強いんです。今回のけがで、(選手たちには)競技自体を嫌いにならないでほしいですね」
欠場した選手はいずれも10代~20代前半。不運による挫折を乗り越え、また最高のパフォーマンスを見せてほしい。(AERA dot.編集部・飯塚大和)