リンクを降りて中野園子コーチの腕に飛び込んだ坂本の目からは、大粒の涙がこぼれた。大きな重圧をすべて演技に乗せて昇華し、緊張から解き放たれた瞬間だった。
「天真爛漫な笑顔」がトレードマーク、とされる坂本だが、根底には責任感の強さがある。渦中の人、ワリエワが不在の演技後記者会見では、カメラマンの要望に応えて、いくつものお茶目なポーズを取ってみせた。決して好成績にはしゃいでいるのではない。1位の選手が登壇しなかった会見を、少しでも盛り上げようという意識の現れだろう。一方で、ドーピング問題についての質問には、「詳しい事はわからないので私が言えることは何もない、今は自分に集中するだけ」と、慎重に、しかし明確に自らの立場を言葉にした。
難解なプログラムを坂本に授け、厳しく指導した振付師のブノワ・リショー氏は、インスタグラムで坂本をこう称えた。
「自由、それは魂の酸素。自由、それはカオリ・サカモト」
17日に行われるフリープログラム、坂本、樋口らが登場する第4グループは22時頃のスタートとなる。力強く、自分らしく。坂本の壮麗な飛翔が楽しみだ。(菱守葵)
※週刊朝日オンライン限定記事