
■大国になびくばかり
国際オリンピック委員会(IOC)とは、しょせん「金を持っているところになびく組織」なんです。ショーとしての五輪を考えたとき、必ずメダル争いに絡んでくる選手を擁するロシアを全面的には外しにくい。加えて、五輪を今後も開催できるかもしれない数少ない国です。小国ならすぐに切られていたでしょうけど、大国だからこその忖度(そんたく)がそこに生まれる。
全く同じことが、性的暴行を訴えた女子テニスの彭帥選手の件で、中国を不問に付したことにも言えます。「人間の尊厳の保持に重きを置く平和な社会」の実現などと書かれている五輪憲章の理想を、IOCが自ら踏みにじっているのではないでしょうか。
坂上:同感です。五輪史上で最もひどい出来事じゃないですか。「理想は地に落ちた」とも感じます。彭帥(ポンショワイ)選手の件も、中国に透明性を確保したうえでの調査を求めたWTA(女子テニス協会)のような対応が、なぜIOCにできないのか。政治に対し、大国に対し、なびくばかりで「何も言えないIOC」。この課題ははっきりしています。
緊迫化するウクライナ情勢についても何も言わない。IOCはNGO(非政府組織)で、五輪は市民の運動イコール平和運動です。平和を踏みにじっているのは何か。政治権力です。そことの対峙(たいじ)なくして、この運動は完結しません。
選手たちのなかにも、例えば「中国の人権抑圧はひどい」と思っている選手は多くいます。その口を、IOCは「私たちは政治的中立」という名の下に封じている。プラス、中国が「国内法で裁く」と脅しをかける構図。選手側からすると、意見表明権が奪われている状態です。
本間:日本選手団に言いたいことがあるんです。ウイグル自治区や香港で起きていることを見れば中国が強権国家であることは明らか。そんなところに「平和の祭典だ」と集まって、笑顔を振りまいて競技して、何も感じることはないのかと。
1980年モスクワ五輪のように選手の自主性を奪う形には反対ですが、選手が自ら「行きません」と言うのは自由なはず。そういう人が日本選手団から1人でも出てくれればと思ったのですが。(構成/編集部・小長光哲郎)
※AERA 2022年2月28日号より抜粋