◆患者の死で孤立する人の支援を

 ただ家族も在宅医療をやると決めたなら、まずは医療者や介護者と信頼関係を作ろうとする姿勢が大事になる。その上で、何か気になることや困ったことがあったら、自分の中で抱え込まずに、相談すること。

 心を開いて話をしても、聞いてもらえない、医療者が大事なことを勝手に決めていってしまうなどと感じたら、そう感じたことを伝えてみる。それでも何も変わらないなら、交代の検討も視野に入れるべきかもしれない。前出の在宅医は言う。

「医師や看護師が、患者や家族の話をしっかり聞いて話し合えること、そして医療者側の価値観やルールを押し付けてこないこと。この二つは医療者の必須条件。もしこれらが欠けていると感じたら、それを伝えて、どう対応するかを見極めるのも一つの手です」

 80代の親が50代の子どもの暮らしを経済的に支える「8050問題」が取り沙汰されるようになって久しい中、患者が亡くなることで独りぼっちになり、経済的にも精神的にも追い詰められてしまう人への対策も急務だ。社会から孤立した人は、表立って存在が見えづらいからこそ、より深刻化してしまう。「グリーフケア」と呼ばれる、大切な人との死別経験から生じるつらさを解消するための外来が少しずつ増えてはいるものの、在宅医療でも病院でも、基本的に残された家族のためのサポートは用意されていない。前出の大軒さんは、こう強調する。

「日本人はまだまだ精神的な相談そのものに対する抵抗感が強い。ですが社会から孤立した人が話せる相手が一人でもいれば、悲惨な事件は防げるかもしれない。昨今多発している巻き込み自殺を図ろうとした事件を見ていると、対策を急がないと、また同じような事件が起こりかねない」

 コロナ禍でますます需要が高まる在宅医療。医療者に、いわれのない矛先が向けられることが二度とあってはならない。(フリーランス記者・松岡かすみ)

週刊朝日  2022年2月25日号

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松岡かすみ

松岡かすみ

松岡かすみ(まつおか・かすみ) 1986年、高知県生まれ。同志社大学文学部卒業。PR会社、宣伝会議を経て、2015年より「週刊朝日」編集部記者。2021年からフリーランス記者として、雑誌や書籍、ウェブメディアなどの分野で活動。

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