ガイドラインの2018年版からは、手術ができない人だけでなく、切除可能でも手術を希望しない患者には放射線治療が推奨されるようになった。「あくまで標準治療が肺葉以上の切除であることを十分に説明することが重要」との文言も添えられている。

■SBRTと手術を比較した新たな研究結果が発表

 根治が十分期待できるにもかかわらず、なぜ放射線治療は標準治療ではなく二番手に甘んじているのか。SBRTが標準治療になるには、同じような背景を持つ早期肺がん患者を、手術とSBRTのいずれかに無作為に割り付け、治療後の生存率などを比較する無作為化比較試験(RCT)をおこなって、手術と同等以上の結果であったと証明する必要がある。

 これまで海外でRCTがいくつか計画されたが、患者の多くが希望する治療を選べないことに抵抗感があって必要数が集まらず、SBRTの実力を証明できるような結果につながっていなかった。

イラスト/寺平京子(週刊朝日ムック「いい病院2022」より)
イラスト/寺平京子(週刊朝日ムック「いい病院2022」より)

 しかし21年、アメリカのMDアンダーソンがんセンターの医師によって、より信頼性が高いSBRTと手術を比較した新たな研究結果が発表された。今回の研究(改訂STARS試験)では、病理検査で確定診断を受けたステージIAの手術可能な早期非小細胞肺がん患者を登録後にSBRTをおこない、治療成績データを収集。同時期に同施設で標準治療である手術(肺葉と近くの縦隔リンパ節を切除)を受けた患者の治療成績データも集め、両治療成績データと比較している。武田医師はこう説明する。

「この研究では手術が可能な患者さんのみが登録されているため、SBRTを受けた患者さんが手術できないほど状態が悪いわけではなく、実際に手術を受けた患者さんとの体力差が小さい。さらにその小さな差も解消するために、『SBRTを受けた80人とほぼ同じ状態の患者を、実際に手術を受けた患者さん352人のなかから80人抽出する』という統計学的手法を用いて、治療成績を比較しています。患者さんを無作為に割り付けるRCTではありませんが、年齢や体力、がんの大きさ、組織型(がんのタイプ)について両治療法の患者さんの条件をそろえているのでRCTに近く、科学的に厳格な手順でおこなわれた研究です」

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