しかし、バレンティンは9月11日の広島戦(神宮)で、20試合以上を残して55号に到達。足踏みもあったものの、9月15日の阪神戦(神宮)で56号、57号を連発し、ついに記録を49年ぶりに塗り替えてみせた。

 後日、あらためて祝福の言葉をかけると「約束を覚えてるか?」と言ってまたニヤリ。そうなると知らんぷりを決め込むわけにもいかない。あれこれ悩んだ末に、派手好みな彼が喜びそうな金箔入りのスパークリングワインを贈ることにした。決して高価な品ではなかったが、こちらが思っていた以上に喜んで、後々まで「あれは一生飲むつもりはない。オレのお気に入りの1本だからな」と言ってくれていたのが印象深い。

 この年は本塁打の数を「60」まで伸ばしただけでなく、打率.330(リーグ2位)、打点131(同2位)、出塁率.455(同1位)というハイレベルな成績で、最下位球団の選手としては史上初のリーグMVPを受賞。オフにはテレビCMにも出演するなど、当時のヤクルトでは唯一と言っていい全国区のスターになる。ところがその翌年、“事件”が起きる。

 年明け早々の2014年1月、自宅のある米国フロリダ州で、夫人に対する監禁暴行容疑により逮捕されてしまったのだ。キャンプ前に保釈されて来日し、記者会見を開いて神妙な面持ちで頭を下げるのだが、なかなかに衝撃的な出来事だった。当時、夫人とは離婚協議中とも報じられたが、いつの間にか暴行に関する訴訟、離婚訴訟ともに取り下げられ、再び夫婦として仲睦まじい姿を見せるようになるのだから、男女というのは分からない。

 2019年6月には、夫婦の間に当時7歳の娘に続いて待望の男児が誕生。出産立ち合いのため一時的にチームを離れながらも、バレンティンは来日9年目で8回目の30発超えとなる33本塁打を放つが、その頃には球団の評価はかなり落ちていた。実際、この年に打ったホームランの大半は変化球をとらえたものであり、力のあるストレートに対してはミスショットも目立つようになっていた。

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「金の問題じゃない」とヤクルトを退団…