AERAで連載中の「この人この本」では、いま読んでおくべき一冊を取り上げ、そこに込めた思いや舞台裏を著者にインタビュー。
この記事の写真をすべて見る『ラジオ報道の現場から声を上げる、声を届ける』は、TBSラジオで唯一の専業記者、澤田大樹さんの初著書。予算もスタッフ数も厳しいラジオ業界で、逆境に屈せず、知恵と番組スタッフとのチームワークで取材に奔走する。自身の人生と番組制作の舞台裏を交えながら、報道の使命と責任を綴る。発売前からラジオ番組のリスナーを中心に注目を集め、3刷。出版イベントなどでは、予想以上に女性読者からの反響が多いという。澤田さんに、同書にかける思いを聞いた。
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澤田大樹さん(38)は、TBSラジオで唯一の専業記者だ。主な取材フィールドは政治。時事問題も多い番組「荻上チキ・Session」や「アシタノカレッジ」のリスナーには的確に取材し、わかりやすく解説してくれる名物記者として頼られている。
初著書で綴られるのは、報道の存在意義。とくにラジオだからこそできる報道のあり方とその価値への論が熱い。そう考えるに至った自伝的要素も盛り込まれている。
「僕の記者としてのベースに深く関わる成育歴、記者になった経緯と体験を書くことで、取材に対する姿勢やジェンダー問題を重視する理由をリスナー以外の読者にも届けたかったんです」
福島県出身の澤田さんは、食卓で政治や社会問題を語り合う家庭で育った。10代の頃、孤独感を救ってくれたのは、地元ラジオ局の人気番組だった。沖縄の琉球大学で学ぶ間に米軍基地問題を目の当たりにした。入社後、東日本大震災では在京の東北出身者である「半分当事者」として災害報道の前線に立った。
そして、澤田さんの名前が一気に広がる会見に遭遇する。2021年2月4日、日本オリンピック委員会(JOC)の臨時評議員会での女性蔑視発言が問題視された東京五輪・パラリンピック大会組織委員会会長(当時)、森喜朗氏の会見だ。