重症心不全患者にとって「最後の砦」とされる心臓移植。希望者は増え、待機時間は長くなる傾向にある。移植医療の現場を取材した。AERA 2022年2月28日号から。
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923人──。
2021年12月時点で、日本臓器移植ネットワークに登録された心臓移植を希望する人の数だ。心臓移植とは、ほかの治療法では救命できない重症心不全患者の心臓を、脳死者の健康な心臓と入れ替える治療法。いわば「最後の砦」で、これだけの人が主に補助人工心臓で命をつなぎながら移植を待っている。希望者は年々増え、21年は初めて900人を超えた。
平均1500日以上
移植を受けるまでの待機期間も延びており、最も病状が重いステータス1での平均待機期間は1500日以上。去年心臓移植を受けた石井さん(男性・名は非公開)は、15年に補助人工心臓を装着し待機リストに登録されてから、足掛け7年で移植にたどり着いた。
「私が登録した当時の平均待機期間は、3年程度でした。医師からは『移植登録者も増えていて、3~5年が目安。(延期前の)東京五輪は新しい心臓で見に行けますよ』と説明された。なるべく年数を考えないようにしたので比較的落ち着いて待てましたが、不安に耐えられず自暴自棄になる時期もありました」
石井さんは患者同士の交流会を企画・実施してきたが、移植前に亡くなった仲間も少なくないという。
心臓移植を待つ患者が増えているのは、移植件数が減っているからではない。心臓移植の第一人者で、国立循環器病研究センター移植医療部長の福嶌教偉(ふくしまのりひで)医師はこう解説する。
「希望者が増えたこと、移植を待つ人が長く生きられるようになったことが理由です。それは移植医療の進歩でもあります」
現在、年間100人ほどが新たに心臓移植を希望するが、かつては20~30人ほどだった。
「移植でしか助からない心臓病の患者は少なくとも年間500~600人はいます。ただ、ほとんどの人が移植という選択肢を知らず、あるいは知っていても受けられると思わずにあきらめていた。移植への認知・理解が進み、実施数も増えて、状況が少しずつ変わってきたんです」(福嶌医師)
医療の進歩としては、主に用いられる補助人工心臓のタイプが変わった。重度の心臓病患者は、投薬などで心機能を維持できなくなった場合、循環を助ける補助人工心臓を使用する。11年ごろから従来よりも小型で長持ちするポンプを使った体内植え込み式の補助人工心臓が用いられるようになった。