結局、9カ月の修業を終えて、やはりホリスティック医学を目指す郷里の病院就職していったのですが、この間の仕事ぶりが並ではないのです。一人の医師としての責務を果たしながら、気づくと私の後ろにいるのです。

 私の一挙手一投足、なかんずく患者さんとの接し方を学ぼうとしているのです。そして、少しの時間も無駄にできないとばかりに、病院のなかを走り回っています。まるで女忍者のようです。そこで私は彼女のことを「くのいち」と呼ぶことにしました(笑)。

「学ぶ」という言葉の語源は「まねぶ」で「まねる」と同じであるそうです。彼女は「治し」に関しては大学病院で十分に修業を積んできていたので、今度は「癒やし」について貪欲に私をまねようとしていたのです。

 さて、そのときにまねられる私の方が現状維持のままでは、いつしか彼女に追い越されてしまいます。彼女の学びの気迫に押されて、私もより上の境地を目指す気になりました。彼女の学びと私の学びが共鳴したのです。まさに学びには終わりがありません。私はこのまま、90歳になっても学び続けるつもりです。

帯津良一(おびつ・りょういち)/1936年生まれ。東京大学医学部卒。帯津三敬病院名誉院長。人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱。「貝原益軒 養生訓 最後まで生きる極意」(朝日新聞出版)など著書多数。本誌連載をまとめた「ボケないヒント」(祥伝社黄金文庫)が発売中

週刊朝日  2022年3月4日号

暮らしとモノ班 for promotion
大谷翔平選手の好感度の高さに企業もメロメロ!どんな企業と契約している?