順天堂大学順天堂医院心臓血管外科特任教授 天野篤(あまの・あつし)医師。2002年に同院同科教授に着任。主任教授を経て、21年から現職(撮影/写真部・高野楓菜)
順天堂大学順天堂医院心臓血管外科特任教授 天野篤(あまの・あつし)医師。2002年に同院同科教授に着任。主任教授を経て、21年から現職(撮影/写真部・高野楓菜)

 心臓手術の領域でいうと、オフポンプ冠動脈バイパス術(心拍動下冠動脈バイパス術)が日本で普及してきたのが、ちょうど2000年くらいの時期で、動いたままの心臓の吻合(ふんごう)部位を固定させる器具「スタビライザー」が保険収載となったことが契機になっています。この約4年後に、カテーテル治療では再狭窄(きょうさく)が起こりにくい「薬物コーティングステント」も保険が通りました。

 近年は弁膜症の治療例が増えています。主なのは、僧帽弁が弱くなり変成して起きてくる逆流と、大動脈弁が石灰化によって固く狭くなってくる狭窄症の二つです。心臓超音波検査の進化により、軽症例から見つけられるようになりました。何年経過すると症状が出て、治療が必要になってくるかなど、適切な治療のタイミングがわかるようになり、治療方法も多様化し、安全性が増しています。

 心臓疾患の治療法を選ぶ際に、外科がやるのか、内科でやるのかといった議論は、確かに2010年代前半ごろにはありました。それが現在は例えば、大動脈弁狭窄症は外科と内科がともに治療に参画してハートチームをつくるなど、診療科の垣根を越えて、一つの疾患についてチームで取り組むようになってきました。長期予後を保てる治療内容になるように、内科と外科が知恵をしぼって協力するということです。この取り組みは当院でも実施しています。

 低侵襲にアプローチできる内科的治療は今後さらに進化していき、大きく皮膚切開する外科的な治療はますます減っていくでしょう。

 そうなると、外科が担うのは、外側から臓器に入らないと処置が難しい大がかりな治療や、過去に外科医が治療した症例の再手術、救済手術などに限定されていきます。外科医は自分たちで、外科の残る余地、活躍する場を探すことが必要です。経験や知識に頼るだけではなく、新しいテクノロジー、例えば遠隔操作のロボット手術やAIによる診断などを駆使しながら、「患者さんのための治療」に専心することが大切なのです。

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