オフポンプ手術を日本に広め、上皇さまの執刀医としても知られる順天堂大学順天堂医院特任教授の天野篤医師。2000年に同院に着任し、約20年にわたりチームを率いてきた心臓手術の第一人者が最重要視してきたのは、チーム医療の強化だといいます。好評発売中の週刊朝日ムック『手術数でわかるいい病院2022』の創刊20年特別企画では、天野医師にこの20年を振り返ってもらっています。一部抜粋してお届けします。
* * *
■エビデンスに基づく医療と低侵襲化で大きく進歩
この約20年で一番の変化は、コンピューターベースの「EBM(科学的根拠に基づく医療)」が確立したことです。インターネットが急速に普及して、世界中の文献やデータが個々のパソコンで入手できるようになりました。世界レベルで治療ガイドラインが決まり、多くのフォローアップデータも出て、偏りのない情報共有が可能になったことは、非常に大きな進歩です。
心疾患領域の治療全般では、欧米から「リスクスコア」が出たことで、治療にとりかかる前に、予測死亡率や合併症発生率などがわかるようになりました。患者さんへの説明もしやすくなったとともに、ハイリスクの症例に対してどう治療していくのがよいかが、より具体的に判断できるようになりました。
次に低侵襲治療の普及です。高齢化する患者さんの負担を減らすには、「平均在院日数の短縮」と「合併症回避」が求められます。この切り札がカテーテル治療などの低侵襲治療です。
新しい治療やデバイス(手術器具)は費用対効果という問題があるわけですが、ハイリスクの患者さんがトラブルなく元気になっていくことを念頭におくと、安全のために費用をかけるべきだという考え方が浸透してきています。新しい治療は長期予後のデータが出ていないことが懸念点ですが、将来的にそれがクリアになり、適切な治療適応が進むことで、より効果を発揮すると思います。