「違法行為と認められるのは医療事故の証拠隠滅や診療報酬詐欺のためのカルテ書き換えなど、患者の生命や行政機関に直接的な被害が出た場合に限られています。そのため、一部の医師には『改ざんしてもリスクは少ない』と考える人もいます」

 そもそも、カルテが改ざんされないようにするためのチェック態勢はどうなっているのだろうか。

 先述した厚労省のガイドラインでは、電子カルテに(1)真正性(正確さ)(2)見読性(誰でも閲覧できる)(3)保存性(一定期間の安全な保存)の三つの条件を厳守するよう求めている。この三つが守られていれば、調査時に改ざんを見つけやすい。

 東邦大大森病院のカルテのチェック態勢は、<電子情報委員会が診療記録を無作為に抽出しチェックしています>という。

 だが、同病院に限らず、大規模な病院では大量のカルテが作られるため、すべてをチェックしきれないのが現状だ。また、電子カルテメーカーが競合他社との差別化のため「我が社の製品は変更履歴を残さない方法がある」と宣伝して病院に売り込むこともあるという。カルテ改ざんがなくならない理由について、貞友氏が指摘する。

「医療事故後のスタッフの協議で、事実を『訂正』して電子カルテを更新したと言い、更新前の記録は患者に渡さないこともある。また、改ざんが発覚した医師が解雇されても、医局を通じて別の病院に転職できます。多くの病院は、医師人材の供給を医局に頼り、推薦された医師を断るのは難しい。ペナルティーがほとんどないのが実情です」

 事実、A氏は現在も東邦大大森病院で診察を続けている。B氏は同病院を退職した後、別の病院で勤務している。医療ジャーナリストの村上和巳氏は言う。

「カルテ改ざんは、詐欺罪や証拠隠滅罪など、裁判によって適用される法律が違います。このやり方では、今後も違法行為の認定が難しいケースが出てしまう。事件によって別々の法律を適用するのではなく、カルテ改ざんの違法性を明文化した、医療情報を保護するための新しい法律が必要です」

 法律の盲点となっているカルテ改ざんは、決して軽い犯罪ではない。(本誌・西岡千史)

週刊朝日  2022年3月11日号

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