※写真はイメージです (GettyImages)
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 名門・東邦大学の系列病院で、手術件数を水増しするため、大量のカルテが改ざんされていたことが本誌の取材でわかった。主導したのは産婦人科の主任教授。その目的は何だったのか。なぜ、悪質なカルテ改ざんはなくならないのか。

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 ある産婦人科医は怒りをあらわにした。

「カルテ改ざんは犯罪です。それを、准教授のポストを得るために手術の記録を書き換えるなんて」

 医師にとってカルテとは、適切な医療や看護を提供する土台になるものだ。カルテに正しい情報が書かれていることで、病院スタッフが患者の情報を共有できる。

 ところが、東邦大学医療センター大森病院(東京都大田区)では昨年7月、46件もの電子カルテが改ざんされていた。大学関係者は言う。

「改ざんしたのは、産婦人科のA主任教授(男性)とB准教授(男性)=肩書はいずれも当時。B氏は1年間の任期付き採用だったので、昨年夏に学内の委員会で任期延長の審議が予定されていました。B氏をかわいがるA氏は、他の医師が実施した手術の執刀医名をB氏の名前に書き換えるよう、B氏に指示しました。審議を有利に進めるため、実績となる手術件数を水増ししたのです」

 だが、稚拙なウソはすぐにバレた。委員会で、多すぎる手術実績に疑義が出たのだ。そこで学内で調査したところ、手術に立ち会ったとカルテに書かれた医師や看護師がB氏の手術を次々と否定。改ざんした時の電子カルテの変更履歴にも、記録を変更した人物としてB氏の名前が残っていた。前出の関係者は言う。

「まさか、カルテを書き換えているとは思ってもいませんでした。その後、10月に学内で臨時懲戒委員会が開かれ、A氏とB氏は1カ月間の出勤停止、A氏はさらに主任教授から教授に降格となりました。ただ、主任教授を降りた理由は本人から公式な説明はなく、B氏は10月末で退職しました」

 東邦大大森病院は本誌の取材に対し、書面で回答。46件のカルテ改ざんの事実を認めた。その上で、▽患者への影響はなかった▽書き換えの動機がもっぱら学内の問題で学外に影響がなかった▽学内の懲戒委員会で厳正に処分した▽速やかに正しい情報に原状復帰できた──ことなどから、病院外に公表はせず、警察などへの届けも出さなかったとしている。

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