登場曲が“メジャー”なものになっていく上で、この2曲が大きな役割を果たしたのは間違いないが、その背景にあったのが1989年に公開された映画『メジャーリーグ』の存在である。弱小球団として知られていたクリーブランド・インディアンス(今季からガーディアンズに改名)が、個性的な選手たちの活躍により優勝戦線を駆け上がっていく姿を描いたこの映画で、チャーリー・シーンが演じたのがクローザーのリッキー・ヴォーン。彼の登板時に流れるのが、米国のパンクバンドX(エックス)の『ワイルド・シング』(1960年代にヒットしたトロッグス『恋はワイルド・シング』のカバー)だ。

 公開当時、この映画に影響を受けた1人にボルティモア・オリオールズの場内演出の責任者であったチャールズ・スタインバーグがいた。彼はルーキーながら抑えを務めていたグレッグ・オルソンに登場曲が必要と考え、『ワイルド・シング』をチョイスする。パワフルなイントロに、歌い出しからいきなりサビというノリのいいロックナンバーでマウンドに上がったオルソンは、見事に新人王を獲得。翌1990年はオールスターにも選ばれた。

 スタインバーグはのちにパドレスの副社長に転身するのだが、彼に「ホフマンにも登場曲が必要だよ。オルソンみたいにね」と提案したのが、オルソンが新人王となった1989年にオリオールズでデビューし、1995年からパドレスでプレーしていた外野手のスティーブ・フィンリーだったという。その言葉に触発されたスタインバーグの意向を汲んで、2000枚ものCDを所有する音楽マニアの球団職員がホフマンの登場曲として選んだのが、あの『ヘルズ・ベルズ』だった。

 リベラの場合は、ホフマン登板時の盛り上がりにヤンキースのスタッフが着目したことがきっかけとなったのは、前述のとおり。リベラ自身はヘビーメタルには関心がなく、殿堂入りが決まった際の「MLBネットワーク」のインタビューでも「申し訳ないが彼ら(メタリカ)のライブには行ったことがない。クリスチャンとして、あの手の音楽は聞かないんだよ」と話している。メジャーリーグ史に残る2つの登場曲が、どちらも自身の選曲によるものではないというのは面白い。

暮らしとモノ班 for promotion
「更年期退職」が社会問題に。快適に過ごすためのフェムテックグッズ
次のページ
日本人選手の登場曲も話題に…