登場曲というものをファンに強く印象付けたのが、メジャーリーグ史に残る2人のクローザーだ。1人は伝家の宝刀チェンジアップを武器に、史上初の通算600セーブを達成したトレバー・ホフマン。もう1人はほぼカッター一辺倒で、ホフマンをしのぐ歴代最多の通算652セーブをマークしたマリアーノ・リベラである。

 サンディエゴ・パドレスの守護神であったホフマンの登板時にオーストラリア出身のロックバンド、AC/DCの『ヘルズ・ベルズ』が流れると、イントロの「ゴーン、ゴーン……」という鐘の音と共に「勝ったも同然!」とばかりにスタンドが興奮のるつぼと化すようになったのは、1998年7月のこと。ホフマンはこの年、当時のナ・リーグ新記録となる53セーブを挙げ、チームは14年ぶりのリーグ制覇を達成する。ワールドシリーズではニューヨーク・ヤンキースに敗れて初の“世界一”を逃すことになるが、ホフマン登板時の盛り上がりに目をつけたのが、ほかならぬヤンキースのスタッフだった。

 翌1999年、ヤンキースはクローザーとして3年目のシーズンを迎えたリベラの登場曲として、メタリカの『エンター・サンドマン』を採用する。ブルペンから小走りでマウンドに向かう守護神のバックで印象的なギターリフが静かに鳴り響き、そこに力強いドラムが加わると、ファンはそれだけで勝利を確信した。

 この年、当時の自己最多を更新する45セーブを挙げたリベラは初のセーブ王に輝いただけでなく、ワールドシリーズでは1勝2セーブでMVPに選ばれるなど、2年連続の“世界一”に大きく貢献。その後も2013年限りでヤンキース一筋の現役生活に別れを告げるまで、このアメリカを代表するメタルバンドの曲と共にマウンドに上がり続けた。

 ホフマンも2010年にミルウォーキー・ブルワーズでユニフォームを脱ぐまで“地獄の鐘”を鳴らし続けており、歴史に残る2人のクローザーの代名詞ともいえるこの2曲は、殿堂入り級の登場曲としてファンの記憶に深く刻まれている。ちなみにホフマンとリベラは米野球殿堂、AC/DCとメタリカはロックの殿堂入りを果たしている。

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登場曲で忘れてはいけない映画