ある程度の規模の病院でがんと診断がつくと、その病院で手術をする前提で話が進んでいく。一昔前なら、「ほかの病院に変えたい」と思ったところで医師にそんなことは言いづらく、そのままその病院で手術を受ける人も多かっただろう。今回取材をしてみると、いまでもそんな悩みを抱える患者は多いが、逆に医師のほうは「そんなときは遠慮すべきではない。病院を変えてもいい」と断言する。好評発売中の週刊朝日ムック『いい病院2022』(朝日新聞出版)から一部を抜粋してお届けする。
【チャート】がん患者が「病院を変えたい」と悩むことが多い4つのケース
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「明日、手術なんです。私、このまま手術を受けて大丈夫でしょうか?」
日本対がん協会が開設する、「がん相談ホットライン」にかかってきた電話だ。
「どうしてそう思われるのですか? 医療者に不安な気持ちを話してもいいんですよ」
相談員が声をかけると、
「皆さん、忙しそうで……」
病室からかけてきたのか、「今、看護師さんが来たので」 と、電話は切れてしまった。
がん相談ホットラインは2006年から開設されている無料の電話相談だ。がんにかかわる不安や悩みに看護師や社会福祉士が対応し、例年、1万件以上の相談が寄せられてきた。20年はコロナ禍の影響もあり、減ったものの、6964件の相談があった。
相談支援室マネジャーの北見知美さんによれば、このような相談の中で冒頭のようなケースは珍しくない。
「がんと告知され、冷静でいられる人はいません。検査を受ける中で、『がんが見つかるかもしれない』と思っていても、ショックを受けます。その中で治療法や手術日がどんどん決められていく。ふと我に返ったときに、『この病院でいいのか』と迷い始めることが多いようです」
■転院したいが言い出せないと悩む患者は多い
「迷う」理由は何なのか。よくあるのが、インターネットや家族からさまざまな情報を知り、「今かかっている病院よりも、もっと体制の整った、がんの専門病院などに行ったほうがいいのではないか?」というものだ。