ショートプログラム1位のワリエワ選手はフリーで乱れてメダルを逃し、演技後に涙した
ショートプログラム1位のワリエワ選手はフリーで乱れてメダルを逃し、演技後に涙した
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 スポーツ界は15歳のフィギュアスケート選手のドーピング問題で揺れている。この問題に詳しい早川吉尚さんと、五輪経験者でもある室伏由佳さんが話し合った。 AERA 2022年3月14日号から。

【写真】ワリエワ選手に「なぜ諦めた?」などと詰問するエテリ・トゥトベリゼコーチ

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 2月の北京冬季五輪で世界から最も注目を集めたのが、フィギュアスケート女子の金メダル候補だったカミラ・ワリエワ選手(15)=ロシア・オリンピック委員会=をめぐるドーピング問題だった。昨年12月の検査で、狭心症や心筋梗塞(こうそく)などの治療に使われる禁止薬物トリメタジジン陽性反応を示したことが五輪期間中に判明。スポーツ仲裁裁判所(CAS)は、世界反ドーピング機関が規定で定める16歳未満の「要保護者」だったことなどから出場を認めた。だが、ワリエワ選手は重圧からかフリーでミスを連発して4位にとどまり、出場させたことへの波紋はさらに広がった。

 CAS仲裁人で日本アンチ・ドーピング規律パネル委員長も務める早川吉尚・立教大学教授と、2004年アテネ五輪に陸上女子ハンマー投げで出場し、反ドーピング教育を研究する室伏由佳・順天堂大学スポーツ健康科学部准教授の対談で語られた問題点とは。

──ワリエワ選手のドーピング問題をどう考えますか。

早川:今回の事件の特徴は、「要保護者」という16歳未満のアスリートから、しかも悪質性の高い物質が検出されたことです。規定では悪質性が高い物質は無条件で暫定的資格停止になり、白黒はっきりするまで大会には出られないのですが、CASの3人の仲裁人は要保護者であることを理由に例外を認め、出場が継続されました。ですが、批判が大きく、ワリエワさんは冷たい目が注がれるなか、過酷な条件で滑らざるを得ませんでした。CASの判断は五輪に出られるか出られないかではなく、それ以外にも例外を認めたものです。

室伏:ほかの選手たちにとっても過酷でした。過去に違反し資格停止期間を経て復帰した選手と戦うことはあっても、はっきり陽性反応が出た人と戦うことはこれまでにありません。選手はなんとも言えない気持ちになっても、それを表に出してしまえば自分のパフォーマンスが狂ってしまう。勝敗とは別のことが混在するすごく複雑な環境で戦って、さらに(ワリエワ選手が3位以内に入れば)メダルセレモニーもできない可能性がありました。私が出たアテネ五輪も(陸上の)男子ハンマー投げや女子砲丸投げの金メダリストらに陽性反応が出てメダルを剥奪(はくだつ)されました。回想するたびに何の大会に出たんだろうと思うし、すごく嫌な気持ちが一生残ります。

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