開業からわずか10カ月後、関東大震災に見舞われた。被害は甚大で、3年半の休業を経てようやく再開。その際に客室部分を改装し、宴会や結婚式に特化した造りにした。
戦時下は大政翼賛会に徴用され「大東亜会館」と改名されて営業。終戦後はGHQに接収され将校クラブとなった。
GHQ接収時代、バーで風変わりなカクテル(後に「會舘風ジンフィズ」と命名)が誕生した。
「将校たちは昼間からお酒を飲みたかったんですが、マッカーサー元帥に見つかりたくない。そこで当時の酒場主任の今井清が、ミルクとジンを使ったカクテルを発案したんです。ミルクとアルコールは分離するのでステアが大変ですが」
脚のついたカクテルグラスではなくミルクグラスを用いたこともあり、牛乳にしか見えない。
「味も良いということで将校の間で広まりました。マッカーサー元帥も飲んだというふうに語られています」
時代は移り、日本はオリンピックを開催できるまで復興した。
「オリンピックを機にフランス料理を広めたいと考えたフランス政府に選ばれ、本国からシェフが招かれて期間限定で『イル・ド・フランス』というレストランを開きました。そのときに伝えられたメニューのひとつが『牛フィレ肉のフォア・グラ詰パイ包み焼き』です」
熟成させた牛ヒレ肉の塊の真ん中に鉄の棒で穴を開け、その中心にフォアグラを差し込み表面を焼く。休ませてからパイ生地に包み、オーブンで焼いたものだ。
この料理に舌鼓を打った国賓がいる。イギリスのエリザベス女王だ。1975年に来日した折、東京會舘で午餐会が開かれた。そのときのメインとして供されたのだ。
「プリンスアルベール」とも呼ばれるこの料理は、今も結婚式で絶大な人気を博す。「舌平目の洋酒蒸 ボンファム」「會舘風ジンフィズ」も、何代にもわたって人々を楽しませている。
東京會舘は2019年に、モダンな建築物として新装開業した。だがかつての雰囲気は残る。100年前に宴会場を照らしたシャンデリアが、今は優雅に螺旋階段を照らしている。(本誌・菊地武顕)
※週刊朝日 2022年3月18日号