イラスト/もりいくすお
イラスト/もりいくすお

「埼玉県立高の入試は40点満点、5教科で200点満点だ」。決めた! なんか、ラクそう! そして私は見事合格。B、いや春日部高校に。そうとなれば、もうするべきことは一つ。あの子に告白だ!!

「学校も逆方向だし。お友達のままでいましょう」。春になり、私は清い身体で、冷暖房の無い、教室は土足上等の砂埃の吹き溜まる、辺境の地の高校へ通うことになった。

 入学式。見渡す限り男、男、男。先生も男。保健の先生はかろうじて女性だったが、若いころの森昌子さんと同じ髪形のお婆さん。隣の席のヤツが話しかけてきた。「野田から来てるの? まじか、蛇口から醤油出るんだろ? 野田って(笑)」。埼玉の奴らから見ると野田のほうが数段田舎だったようだ。「たまに出るかな(薄笑)」と応えておいた。

 あの時、A高にしとけば今頃私は……外交官だったはず。その過程はおいといて、平和のために世界中を飛び回っていたはずだ。そのはずだ。でももう落語家だから、とりあえず近場から平和にしていこう、と思う。

春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/1978年、千葉県生まれ。落語家。2001年、日本大学芸術学部卒業後、春風亭一朝に入門。新刊書籍『人生のBGMはラジオがちょうどいい』(双葉社)が発売。ぜひご一読を!

週刊朝日  2022年3月18日号

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