「以前の施設で要望を主張しすぎて折り合いがつかなくなり、うちの施設にお母さまをお連れになられた女性がいました。女性は介護業界で要職につかれた方。介護や福祉に関する思いが強く、前の施設で煙たがられていたようです。皮膚は清潔にしてほしい、着替えはちゃんとしてほしい、床ずれは作るな──など要望が強くなるほど施設と乖離(かいり)していった。でも私からすれば、どれも当然の主張です」

 高口さんは「介護は人間関係そのもの」という。

「介護保険は人間関係を保障する制度ともいえます。利用者の人間関係を守りぬくため、その人の生きてきた過去を知り、人生を丸ごと受け止め、施設介護ならば旅立ちまで見届けて充実の人生をご家族とともにつくっていくべきです」

 次の「施設を見定めるポイント」は、「自分で足を運ぶこと」が大前提だが、施設見学の際はこう聞こう。

「看取りまで対応してくれますか」

 それに対して自信をもって「うちではやっています」と答えるところが安心だと高野さんは言う。

「『これからやろうと思っています』とか『ケース・バイ・ケースです』いう回答だと、医療依存度が高くなったときにいられなくなる可能性があると考えたほうがいいでしょう。介護職員の離職率が高いところは運営がまずいのかなと思いますね」

 記者も両親を2年前に特養に入れたが、施設との折り合いがつかずに約半年で退所させた。その後利用した看護小規模多機能型居宅介護事業所では、コロナの感染者が出て一時的に閉鎖。介護度の高い母をみる場所を失ったことで、つい先日、母だけ有料老人ホームに移したばかりだ。

 わずか1週間で次の施設を探して移す「作業」に追われ、体重は3キロ落ちた。仕事の引き継ぎのようだった。前ケアマネから資料をもらい、次施設のケアマネに渡し、電卓をたたき、居室内のタンスなどの備品を購入。片付けをし、あいさつをした。契約書を交わしたのは入居当日だった。

 最も大変だったのは本人への説得だった。慣れ親しんだ施設にずっといられないというのは、介護者だけでなく本人もつらいこと。まさに「施設難民」だ。

 介護に関しては何が正解なのか、まったくわからないし、見えてこない。それなのに多くの決断に急を要する。十分すぎるほどの情報と知識を身に付けて備えるしかない。(本誌・大崎百紀)

週刊朝日  2022年3月25日号

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